鬼たちの節分 | めむたんの絵本

めむたんの絵本

めむたんは、Amazonで絵本を電子出版しています。
タイトルは、「きみといっしょに」、「あのもんのなかに」等です。

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逃げながら鬼は大きく口あけて
             豆を食べおり 実は好物


とある山奥のとある小屋の中、二人の鬼がニヤニヤしている。

桃色の肌の鬼の名は、モモの介。

もう一人の黄緑色の肌の鬼は、ワカバの介。

二人そろって、さっきからニヤニヤニヤニヤしている。

モモの介が言った。

「おい、ワカバの介、外に出たら、怖い顔をしなければなんねえぞ。特に人間の前ではな。」

ワカバの介が、腕を組みながら言った。

「うん、もちろんだ。間違っても笑っちゃなんねえ。今日は特別な日だかんな。」

「んだんだ。」

「んだんだ。」

二人は何度もうなずきあった。


今日は節分だ。

二人は、どこからどう見ても鬼に見える。

いや、実際に、本当に、まぎれもなく、二人は鬼なんだ。

これは間違えようがない。


昔からの言い伝えによると、鬼は、

「鬼は外~。」

のかけ声とともに投げられる豆を恐れていることになっている。

豆を投げられたら、逃げなければならない。

もちろん、モモの介もワカバの介も逃げるつもりだ。

とてもゆっくりと。

実際、今までだって逃げてきた。

「やめてくれ~。」

「こわいよ~。」

な~んて言いながら。

とてもゆっくりと。


二人は、足が遅いのだろうか?

いや、そうではない。


二人は小さな声で話し始めた。

「これからしばらくは、豆に困らんな。」

「んだんだ。」

「豆のご飯は、うまいべな。」

「んだんだ。納豆もいいな。」

「んだんだ。あー、たまんねえなあ。豆腐も作るか?」

「おー、いいべな。」

二人は、思わず手を叩きあってしまい、その大きな音に首をすくめた。

「やんべえ。」

「ばれたら困るろ。」

「豆がもらえなくなってしまうべ。」

「鬼は実は豆が大好物なんて、人間に知れてみろ。豆じゃなく、きゅうりが飛んでくるべ。」

「うまあ~、きゅうりも好きだけんどな。」

二人は、ニヤニヤが止まらない。

「きゅうりの糠漬け、うまあ~いなあ。」

「うまあ~いなあ。」

「豆にはかなわねえけんども、きゅうりも良かべ。」

「んだんだ。」

「おっと、いけねえ、今日は豆のことだけ考えろ。豆よりおいしいものは、この世にねえだ。たくさん投げてもらうべ。」

「んだんだ、んだんだ。」

モモの介は、窓から空を見あげた。

「おんや。ワカバの介、そろそろ時間だ。行くべ。」

「おう、もうそんな時間だか。行かねば豆がもらえねえ。行くべ。」

「怖い顔の準備はいいか。笑っちゃなんねえぞ。」

「んだ。笑っちゃなんねえ。」

「いやー、それにしても、なんて親切な行事だべ。鬼に豆ぶつけるなんてな。」

「節分さまさまだな。」

「んだんだ。」

「じゃあ、そろそろ行くべか。」

「んだ。」

 

二人の鬼は、おっそろしい顔を作ると、

「ガオー。」

と言いながら、外に出て行った。


ポケットがいっぱいのパンツを穿いて、金棒の形のバケツを持って。