桃色の肌の鬼の名は、モモの介。
もう一人の黄緑色の肌の鬼は、ワカバの介。
二人そろって、さっきからニヤニヤニヤニヤしている。
モモの介が言った。
「おい、ワカバの介、外に出たら、怖い顔をしなければなんねえぞ。特に人間の前ではな。」
ワカバの介が、腕を組みながら言った。
「うん、もちろんだ。間違っても笑っちゃなんねえ。今日は特別な日だかんな。」
「んだんだ。」
「んだんだ。」
二人は何度もうなずきあった。
二人は、どこからどう見ても鬼に見える。
いや、実際に、本当に、まぎれもなく、二人は鬼なんだ。
これは間違えようがない。
「鬼は外~。」
のかけ声とともに投げられる豆を恐れていることになっている。
豆を投げられたら、逃げなければならない。
もちろん、モモの介もワカバの介も逃げるつもりだ。
とてもゆっくりと。
実際、今までだって逃げてきた。
「やめてくれ~。」
「こわいよ~。」
な~んて言いながら。
とてもゆっくりと。
いや、そうではない。
「これからしばらくは、豆に困らんな。」
「んだんだ。」
「豆のご飯は、うまいべな。」
「んだんだ。納豆もいいな。」
「んだんだ。あー、たまんねえなあ。豆腐も作るか?」
「おー、いいべな。」
二人は、思わず手を叩きあってしまい、その大きな音に首をすくめた。
「やんべえ。」
「ばれたら困るろ。」
「豆がもらえなくなってしまうべ。」
「鬼は実は豆が大好物なんて、人間に知れてみろ。豆じゃなく、きゅうりが飛んでくるべ。」
「うまあ~、きゅうりも好きだけんどな。」
二人は、ニヤニヤが止まらない。
「きゅうりの糠漬け、うまあ~いなあ。」
「うまあ~いなあ。」
「豆にはかなわねえけんども、きゅうりも良かべ。」
「んだんだ。」
「おっと、いけねえ、今日は豆のことだけ考えろ。豆よりおいしいものは、この世にねえだ。たくさん投げてもらうべ。」
「んだんだ、んだんだ。」
モモの介は、窓から空を見あげた。
「おんや。ワカバの介、そろそろ時間だ。行くべ。」
「おう、もうそんな時間だか。行かねば豆がもらえねえ。行くべ。」
「怖い顔の準備はいいか。笑っちゃなんねえぞ。」
「んだ。笑っちゃなんねえ。」
「いやー、それにしても、なんて親切な行事だべ。鬼に豆ぶつけるなんてな。」
「節分さまさまだな。」
「んだんだ。」
「じゃあ、そろそろ行くべか。」
「んだ。」
二人の鬼は、おっそろしい顔を作ると、
「ガオー。」
と言いながら、外に出て行った。