覚えているから | めむたんの絵本

めむたんの絵本

めむたんは、Amazonで絵本を電子出版しています。
タイトルは、「きみといっしょに」、「あのもんのなかに」等です。

絶賛発売中です!!

心配をしなくていいよ風花よ
           私がちゃんと覚えているから
 
 
学校に行こうと、小学三年生のちなちゃんは家を出ました。
すると、ひらひらひらり。
小さな小さな雪が、空から降ってきました。
その雪の名は、風花。
風花とは、晴れているのに降る小さな雪や、山から吹いてきた雪のことを言います。
風に乗せられてあっちやこっちへ、舞うように降ります。
「きれ~い。」
ちなちゃんは、少し見とれてしまいました。
すると、
「・・・・・・」
え?
何か聞こえたような気がしました。
ちなちゃんが耳を澄ますと、
「消えたくないよ、消えたくないよ。」
という、小さなささやきが聞こえました。
「だれ?」
ちなちゃんが聞くと、
「ボクだよ。風花だよ。」
という声が聞こえました。
「風花さん?」
「そうだよ。」
ちなちゃんは、周りを見まわしました。
「消えたくないって、どういうこと?」
「ボクは小さな小さな雪だから、何かに触れるとすぐに消えてしまう。そして忘れ去られてしまう。そんなのは嫌なんだ。消えたくないよ、消えたくないよ。」
ちなちゃんは、目を凝らしてみました。
すると、右へ左へ、上へ下へ、風に乗っていつまでも舞っている、ひとつの小さな風花がいました。
他の風花は、地に落ちて溶けているのに。
ちなちゃんは、舞い続けている風花に言いました。
「風花さん、安心して。あなたのことは、私が覚えていてあげる。いつまでも覚えていてあげる。」
「本当に?」
「大丈夫。覚えていてあげるよ。」
ちなちゃんは、風花に手を差し出しました。
風花は、重ねて聞きました。
「本当に?本当に?」
「大丈夫。覚えていてあげる。」
「いつまでも覚えていてね。ボクのこと、忘れないでね。」
「大丈夫だよ。」
それを聞いて安心したのでしょうか?
風花が、ひらひらひらっと、ちなちゃんの手にのりました。
そして、すうっと溶けて、ちなちゃんの手のひらの上で、ひとつの雫となりました。
 
それから数年がたちました。
小さかったちなちゃんは、高校生になっています。
学校に行こうと家を出ると、風花が舞っていました。
風花たちは風にのり、右へ左へ、上へ下へ、ひらひらひらりと舞っています。
それらをしばらく見つめると、ちなちゃんは、
「風花さん、行ってきます。」
と言い、歩き始めました。