つつがなくまどろみ終えて見回せば
本も紅茶も水底の石
ほとほとほとほと。
ほとほとほとほと。
降りしきる雪が、静かな曲を奏でます。
ほとほとほとほと。
ほとほとほとほと。
雪は後から後から降ってきて、永遠に止むことなどないかのようです。
小高い丘に小さな家が、ぽつんと建っています。
この家には、おばあさんが一人で住んでいます。
80歳くらいでしょうか?
髪の毛は真っ白で、腰も少し曲がっています。
そして、見ていると誰でもうれしくなってしまいそうな、とてもにこやかな顔をしています。
そのおばあさんが今、目を覚ましました。
おばあさんは、お昼ごはんを食べた後、紅茶を飲みながら本を読んでいました。
ですが眠くなって、いつの間にかまどろんでしまったようです。
「おやおやおやおや。」
眠りから覚めたおばあさんは、にっこりしました。
「本も紅茶も、さっきのまんま。」
まどろみの時間は、案外短かったのでしょう。
本は開いたまんまだし、紅茶の入ったコップからは、白い湯気が上がっています。
おばあさんは、紅茶を一口飲みました。
「あら、少しぬるくなっている。」
やはり、さっきのまんま、というふうにはいかないようです。
それはまるで、水底の石のよう。
ごつごつとがった石が長い長い時間をかけて丸く小さくなっていくように、ちょっと見ただけでは分からないような小さな変化が、この家にもあったようです。
ほとほとほとほと。
ほとほとほとほと。
降りしきる雪が、静かな曲を奏でます。
ほとほとほとほと。
ほとほとほとほと。
おや。
空が、少し明るくなったようです。
降り続いていた雪も、止む時が近づいて来たのでしょう。
