星とおしゃべり | めむたんの絵本

めむたんの絵本

めむたんは、Amazonで絵本を電子出版しています。
タイトルは、「きみといっしょに」、「あのもんのなかに」等です。

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星とおしゃべり
 
 寒い冬がようやく終わり、暖かい春がやってきました。
 養蜂家のケイトさんは、ミツバチたちに言います。
「今日からは、タンポポたちの蜜をとってくれるかい?」
「いいよ!」
ミツバチたちは、いっせいにタンポポたちの野原に飛んでいきます。
 ミツバチたちは、タンポポたちと大の仲良しです。蜜を集めるかたわら、おしゃべりをしたり歌を歌ったりします。そんな楽しい毎日が始まりました。
 
 ある日、タンポポたちの蜜を持って帰ったミツバチたちが言いました。
「ケイトさん、タンポポたちは、星とおしゃべりをしたいんだって。」
「星とおしゃべり?」
ケイトさんは目がまんまるになりました。そして、腰に手をあててつぶやきました。
「星とおしゃべりか・・・。むずかしいなあ。」
ミツバチたちは聞きます。
「どうして?」
ケイトさんは言います。
「星がかがやくのは夜だろう?でも夜は、タンポポたちは花を閉じてねむっているんだよ。だから、おしゃべりどころか、会うこともできないのさ。」
「そうなんだ。でも、会っておしゃべりがしたいんだって。なんとかならないかな?」
「う~ん。」
 ケイトさんは、腕をくんで考え込んでしまいました。それを見たミツバチたちも、
「う~ん。」
腕をくんで考え込んでしまいました。
 
 それから二、三日たちました。
 お日さまがぽかぽか光る昼下がり、ケイトさんはお庭のベンチで、はちみつ入りの紅茶を飲んでいます。はちみつ入りの紅茶は、ケイトさんの大好物です。これを飲めば、どんなに疲れていても、元気がわいてくるのです。
 
 ケイトさんは、タンポポたちのことを考えます。
「どうしてあげたらいいかなあ。」
そうつぶやいて、空を見あげました。すると、ちょうちょがひらひらひらっと舞っているのが目に入りました。ちょうちょのいるところだけ、空が見えません。なんだか、そこだけ空が切り取られたように見えました。
「そうだ!」
ケイトさんは大声を出して、立ち上がりました。そして言ったのです。
「昼間の空を少し切り取ればいいんだ!空を切り取れば、たとえ昼でも夜の星に会えるから、タンポポたちと星はおしゃべりができる!」
 なんてステキなアイデア!
 ケイトさんは、さっそくミツバチたちの巣箱へ行き、アイデアのことを伝えました。
 ミツバチたちは大よろこび!
「いいね、いいね!そうしよう!でも、どうやって?」
「ハシゴで空まで登って、ハサミでチョキチョキッて切り取ればいいよ!」
「いいね、そうしよう!」
 さっそく、ミツバチたちはタンポポたちにこのことを伝えに行きました。ケイトさんはケイトさんで、ハシゴと大きなハサミを抱えてタンポポたちの野原へ急ぎます。
 
 ケイトさんが野原に行くと、ミツバチたちとタンポポたちは、キャーキャーワーワー大さわぎしていました。
 ケイトさんは叫びます。
「しずかに!今から星に会わせてあげる。だから少しの間、おとなしくしているんだよ。
「はい!」
 ミツバチたちとタンポポたちは、大きな声で返事をして、そして静かになりました。
「よいしょ。」
 ケイトさんは、タンポポ野原の、こんもりともりあがったところにハシゴをおきました。
 ミツバチたちもタンポポたちも、みんなケイトさんを見ています。
 ケイトさんはみんなを見まわし、
「じゃあ、行ってくるね。」
と言うと、大きなハサミを背負ってハシゴを登り始めました。
 
「うんせ、うんせ。」
ケイトさんは、汗をかきかき登ります。
「ああ、疲れたあ。」
ケイトさんが止まると、ミツバチたちがタンポポはちみつを飲ませてくれます。
 はちみつを食べれば元気元気!
「ようし、やるぞう!」
ケイトさんは、またハシゴを登ります。
 それを見ていたタンポポたちは、なんだかムズムズしてきました。そしておとなしくしていられなくなって、
「がんばれ、がんばれ!」
大きな声で、ケイトさんを応援し始めました。
 ケイトさんはうれしくて、
「がんばるぞう。」
と、勢いよく登ります。
 
 とうとう、ケイトさんは空に着くことができました。見下ろせば、タンポポ野原が小さくぽつんと見えます。
 ケイトさんは野原に向かって、
「着いたよ!今から空を切り取るよ!」
と叫びました。
すると、野原のほうから
「はい!」
と返事がかえってきました。
「よいしょ。」
 ケイトさんは背中におぶっていた大きなハサミを手に持つと、空を切り取り始めました。
チョキチョキチョキ、チョキチョキチョキ。
 空の切れ目から、夜があらわれ、そしてかがやく星があらわれてきました。タンポポたちは、
「わあー。」
と大よろこびです。
 そしていっせいに、
「ケイトさん、ミツバチさんたち、ありがとう!」
と言いました。
 
 ケイトさんとミツバチたちが見守る中、タンポポたちは、星に言います。
「はじめまして、星さん。ぼくたちはタンポポです。ぼくたちとおしゃべりしてください!」
 星も言います。
「はじめまして。はい、ぼくもおしゃべりがしたいです。」
 でもはずかしいのか、おたがいにもじもじして、うまく話せません。
 けれども慣れていくにしたがって、少しずつ言葉が増えてきました。やがてタンポポたちと星はおしゃべりになり、野原はにぎやかになりました。
 
 さあ、これからは、タンポポたちはいつでも星とおしゃべりができるのです。タンポポたちはうれしくて、らんららら、と歌います。
 そのうれしさはタンポポの蜜を少し変えました。そしてその変化は、ミツバチたちやケイトさんにも伝わりました。
 だから、この春のタンポポはちみつは、いつもよりもさわやかで、にっこりしたくなるような甘さになったそうです。
 そしてそのはちみつを食べた人たちは、にこにこにこっとうれしくなって、周りの人にやさしくしたくなったそうですよ。
 
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