この星の名は | めむたんの絵本

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めむたんは、Amazonで絵本を電子出版しています。
タイトルは、「きみといっしょに」、「あのもんのなかに」等です。

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この星の名は
 
しとしとと雨が降り続く昼下がり、定年退職したばかりのショウゾウは、縁側に立って庭を眺めていた。
「秋がきたんだなあ。」
とつぶやきながら。
そして外出中の奥方のことを想いうかべた時、ふと、突然思った。
『宇宙人はこの星の名前が地球だということを、ちゃんと知っているのだろうか?』
ショウゾウは腕組みをして目をつぶり、深く深くため息をついた。そしてつぶやいた。
「きっと知らないだろう。かわいそうに・・・。」
近い将来、宇宙の子供たちは地球の子供たちと友達になるだろう。
その時、宇宙の子供たちは親御さんに、どの星へ遊びに行くと言うのだろう。親御さんも、我が子がどの星で遊んでいるのか分からないのでは、心配でたまらないだろう。
ショウゾウは、宇宙の親御さんたちの気持ちを思って涙ぐんだ。そしてまたつぶやいた。
「この星の名前を、宇宙人に教えてあげなければならないなぁ・・・。」
いつしか雨は止み、きれいな夕焼け空が広がっていた。
 
ショウゾウはまず、大きな半紙に墨で、
『この星の名は地球です』
と書き、庭に出て空に掲げてみた。
でも、ああ残念!
秋の夕陽はつるべ落とし。習字道具を探して、そして書いている間に太陽が沈んでしまった。暗くて文字が読めない!
次にショウゾウは、
メガホンを使い、空に向かって大声で、
「この星の名は地球です!」
と呼びかけてみた。
でも、ああ残念!
叫び続けていたら、近所の家々から、
「うるさい!」
とどなられた。
ショウゾウは悩んだ。宇宙の親御さんたちの気持を思って、さめざめと涙を流した。
「いったいどうしたら教えてあげられるのだろう・・・。」
そうしているうちに、ショウゾウはトイレに行きたくなった。トイレに続く廊下を俯きながら歩いていると、片付け忘れた花火セットが目に入った。
「そうだ!」
ショウゾウはトイレに行くのも忘れて花火セットをつかむと、そのまま庭に躍り出た!
そして花火に火を点けると空に向け、『この星の名は・・・』と伸び上るように文字を書き始めたのである。
これなら夜でも見える。音もそんなにうるさくないから近所迷惑にもならない。ショウゾウはつぶやいた。
「おれって天才・・・。」
でも、ああ残念!
花火だからすぐに消えてしまう・・・。
『この』
とか、うまくいっても
『この星の』
までしか書けない。一番伝えたい『地球』が書けない!
でもショウゾウはあきらめない。次から次へと花火に火を点けて、宇宙の親御さんたちのために、空へ向けて文字を書き続けた。
 
 と、そこへ、奥方が帰ってきた。
そしてショウゾウを見るやいなや、縁側にあった二つの水鉄砲を二刀流のように持った。それからおもむろに、ショウゾウが振り回している花火めがけて撃ち始めた!
 ショウゾウは怒る。
「何をする!今これをしなければ宇宙の親御さんたちが困るではないか!」
「なにを訳の分からないことをおっしゃっているのですか!もう秋なのだから、花火はおしまいです!」
「しかし宇宙の親御さんが!」
「なんのことです!」
「やめろ!邪魔をするでない!」
「とにかくやめなさい!」
 奥方がしつこく撃ってくるので、ショウゾウはとうとう花火を捨て、奥方から水鉄砲を一つ奪った。そして奥方に向け水鉄砲を撃ち始めた。
「やったでございますわね!許さない!」
「ふははは。わしに勝てると思うたか!」
 もうこうなったら止まらない。
ショウゾウは、自らに課した使命をすっかり忘れ、奥方との撃ち合いに没頭した。