ミソラシド 風を奏でる手のひらに
守られている君の耳たぶ
あかねちゃんは、小学校に入ったばかりの女の子です。
ママの手のひらが大好きです。
ママの手のひらはいつもあたたかくて、大きくて、そして油のにおいがちょっとします。
油のにおいがするのは、パパといっしょにコロッケ屋さんをしているからです。
「ただいま!」
小学校から帰ったあかねちゃんは、ママにうしろから抱き付きました。
「おかえり!」
ママは、あかねちゃんのほっぺたを両手でつつみました。
一日中コロッケを揚げているママのエプロンは、油で汚れています。
だから、あかねちゃんを抱きしめるかわりに、手のひらでつつむのです。
ママは、あかねちゃんに聞きます。
「今日はどうだった?なにして遊んだの?」
「しおりちゃんとジャングルジムで遊んだよ。」
「そう、良かったね!」
「それでね、しおりちゃんとおままごとするから、しおりちゃんのおうちに行ってもいい?」
「いいよ!」
ママはあかねちゃんの前にしゃがむと、あかねちゃんの耳を両手でつつみました。
それから、指のすきまからささやくのです。
「ママはお店で待ってるからね。いってらっしゃい。」
「うん!いってきます!」
しおりちゃんのおうちに向かうあかねちゃんの耳には、ママの手のひらのぬくもりが、ほのかに残っています。
そして、ママの手のひらから聞こえた風の音も残っています。
「ふふ。」
あかねちゃんは、なんだかとってもうれしくて、ちょっとだけジャンプをしました。
