神さまのなやみごと
ないしょのないしょのひみつ。
雲の上の神さまは、背中だけが黒いって知ってるよね。でも、その背中が白かったときがあったんだよ。びっくりした?
どうして白かったのって?じゃあ、それを今からおしえてあげる。
むかしむかし、とってもむかし、雲の上の神さまはなやんでいました。
「背中の日焼けをなおしたいなあ。」
かがみのまえでクルリクルリとまわりながらつぶやきます。
「お腹は白いのに背中は黒いなんて、はずかしいよ。」
神さまは雲の上に住んでいるから、いつもお日さまの光をあびています。そして雲の下の私たち生き物を、いつもかがみこんで見ています。だから背中は日焼けして黒く、お腹は白いのです。でもこのあたりまえのことに、神さまはなやんでいました。
そんなある日、神さまのところにセールスマンが来ました。セールスマンは言います。
「神さま、背中を白くするクリームがありますよ。」
神さまは、『えっ、ホント?』て思いました。でも、ホント?て顔をしたら笑われちゃうかもしれません。だから、神さまだぞって顔で言いました。
「見せてごじゃれ。」
セールスマンはニッコリ笑って、かばんから小さなびんを出しました。とうめいなびんの中には、イチゴジャムのような、赤いクリームが入っています。セールスマンは言います。
「これは、シロシロクリームと言います。赤い見た目にだまされないで。これを毎日背中にぬってください。少しずつ白くなっていきますよ。」
そして、ニイッと笑いました。
セールスマンが帰ったあと、神さまは背中にクリームをぬってみました。赤いクリームはひんやりと冷たくて、なんだかとっても効きそうです。
神さまは、まず五日、ぬりつづけてみました。なんとなく、背中が白くなったような気がします。さらに十日、ぬりつづけてみました。こんどは本当に白くなってきました。
神さまはとってもうれしくなって、セールスマンにでんわをかけました。そして、
「クリームを、もっとごじゃれ。ほかにもいいものがあったら、それもごじゃれ。」
と言いました。
さあ、それからがたいへん!シロシロクリーム、シロイワヨあめ、クロケシけしょうすい、オヒサマバリアー・・・。セールスマンはいろんな品ものをもってきます。神さまは、
「これもごじゃれ、あれもごじゃれ。」
と、どんどん買います。そしてぬってみたり食べてみたり。背中はどんどん白くなり、神さまはもう夢中。そしてとうとう、私たち生き物のことをすっかり忘れてしまいました。
神さまが見ていないので、私たちはやりたいほうだい。思いやりの心を忘れて、弱いものをいじめたりけんかをしたり。草も木も動物たちも、大あばれ。それに気づかない神さまは 今日もセールスマンを呼びつけて、
「あれもごじゃれ、これもごじゃれ。」
と言っています。ところがどうでしょう。今までニコニコしていたセールスマンが、
「ばかもーん!」
といきなりどなったのです。神さまはびっくりぎょうてん。おくちがあんぐりとなりました。セールスマンはこわい顔でどなります。
「じぶんの役目を忘れおってからに、このバカ息子が!」
神さまはわけがわからす、ポカーンです。セールスマンはさらに言います。
「まだ分からぬか!わしはおまえのとうちゃんじゃ!見た目にだまされおって、自分の親まで忘れたか!」
「と、とうちゃん?」
よくよく見たら、優しいセールスマンは、こわ~いとうちゃんでした。神さまったら、あわわわっとしりもちをついてしまいました。
「やっと分かったか、このばかもんが!」
とうちゃんはバサバサッとスーツをぬぐと、くるくるとまわりはじめました。
「この背中を見ろ!このお腹を見ろ!背中は黒くてお腹は白い、それは神さまとしての役目を、ちゃんとはたしているということではないか!」
もうこうなったらかないません。
「ごめんなさい・・・」
神さまはせいざをして、しゅんと小さくなってしまいました。
とうちゃんのお小言は、それから一しゅうかんつづき、神さまの背中も、黒色にもどってしまいました。
反省した神さまは、もう見た目を気にしなくなりました。そして私たち生き物のことを大切に見守ってくれるようになったそうです。