ある妄想 | めむたんの絵本

めむたんの絵本

めむたんは、Amazonで絵本を電子出版しています。
タイトルは、「きみといっしょに」、「あのもんのなかに」等です。

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ある妄想
 
ある日、たけしはふと思った。
「空気の向こうには何があるのだろうか・・・」
たけしは試しに、平泳ぎをするように、空気をかき分けてみた。
「なにもない・・・」
目の前に広がるのは、さっきと変らない丸いテーブルと、しょう油のシミのついたふすま。
空気が裂けた様子がまるでない。
たけしは、空気をかき分けた先には、前人未到の新しい世界が広がっていると思ったのである。そこではきっと、色とりどりの花が、大空をジュースのようにごくごく飲んでいるに違いない。
「はさみで切ればいいのだろうか・・・」
たけしははさみを取りだし、ちょきちょきと目の前の空気を切ってみた。
「なにもない・・・」
次にたけしは、
「場所が悪いのだろうか・・・」
と思った。
今度は庭に出てちょきちょきと切ってみた。やはりなにもない。
「そんなわけはない。」
たけしは、はさみをちょきちょき動かしながら庭をぐるぐると回り始めた。
と、その時、たけしの妻が洗濯物を持って庭にやって来た。
妻はたけしの不思議な行動を見て、ぴたっと動きを止めた。そしてしばらく主人を観察し、この上ない優しい声で、
「だんなさま、何をしていらっしゃるのですか?」
と聞いてみた。
たけしは気難しい顔で答える。
「空気の層を切っておるのじゃ。」
「そうでございますか。」
妻はにっこり笑って、この上ない優しい顔で物干し竿を手に持つと、
「ふん!!」
たけしの尻を思いっきりはたいた。そして、
「なあにをばかげたことをぬかしておるか、そんな暇があったら、廊下の掃除でもしておれ!!」
それだけを言うと、しゅんとしているたけしには目もくれず、ふふふふふんと洗濯物を干し始めた。