きれいな花
ある雲の上、おそうじの大好きな神さまがいました。おそうじって言っても、そうじきをかけたりぞうきんがけしたりすることではないですよ。この神さまは、言葉のおそうじをするのです。
人には見えないですが、みんなが何かを話すとき、口から出た言葉は花になります。
きれいな心から出た言葉は、ほんとうに香りのよい、ピンクや黄色のきれいな花になります。そのきれいな花はそのまま地球の中に溶け込んでゆきます。溶け込んだ花は地球をうるおし、そして元気にします。
いっぽう、きたない心から出た言葉はくさくてきたない花になります。色は泥のようにまっくろです。そのきたない花は地球に溶け込むことができないので、いつまでも地面をさまよいます。でもこのままでは地球が疲れてしまいます。だから神さまが、ほうきとちりとりでおそうじをするのです。
だけど気のせいでしょうか、最近、きれいな花よりも、きたない花のほうが多くなってきたようなのです。
きたない花は、神さまが雲の上のゴミ箱にすてます。そのゴミ箱もいっぱいになってきました。
「どうしてだろう。」
神さまは地球の人たちの言葉に耳をすましました。すると、
「きらい!」
という言葉が聞こえてきました。
「あっちいけ!」
という言葉も聞こえてきました。みわたすと、たくさんの人がいらいらした顔をしています。地面を見てみると、きたない花ばかりがつもっていて、地球はとても疲れているようです。
神さまがいくらそうじをしても、きたない花があとからあとから降り積もります。神さまはとってもがっかりし、落ち込んでしまいました。そして熱をだして寝込んでしまったのです。
おそうじをしてくれる神さまが寝込んでいるので、地球はますます泥のような色になり、くさくなっていきました。
ある日、神さまはベッドに横たわりながら妖精たちを集めました。神さまはまだ熱が下がらないので、とってもつらそうです。
神さまは言います。
「かわいいかわいい妖精たちや。君たちにお願いがあります。」
妖精たちはひざまずいて、神さまの言葉を待ちました。
「妖精たちや、地球に下りて、きたない心を持っている人たちの鼻にキスをしてもらえないだろうか?」
「え?」
妖精たちはびっくりして、お互いの顔を見つめ合いました。妖精は聞きます。
「それはどういうことですか?」
「君たちは知らなかっただろうが、妖精のキスは、人の心をきれいにするお薬なのだよ。君たちが鼻にキスをすると、鼻につまったきたない心が小さくなって、代わりにきれいな心がふくらむのだよ。」
何も知らなかった妖精たちは、うれしくなってうふふと笑いました。そして言いました。
「はい、みんなの鼻にキスをしてきます!」
妖精たちはいっせいに、地球へと飛び出しました。
三日後、熱が下がって元気になった神さまは、地球を見下ろしてみました。するとどうでしょう。あんなにきたなかった地球が、きれいな花畑になっていたのです!
妖精たちはがんばりました。きたない心を持つ人たちの鼻にキスをしてまわりました。そのキスは鼻をとおして体に沁みわたり、きれいな心がふくらみました。そして、
「ありがとう。」
とか、
「好きだよ。」
という言葉を言いたくなりました。
みんながきれいな心で話すので、きれいな花が、あとからあとから降り積もります。地球はとっても元気になり、溶け込みきれなかった花々は、地球の上で花畑となりました。
妖精たちはキスをしすぎて口がたらこのようになってしまいましたが、飛び上がって喜びました。神さまも大喜びです。そして妖精たちのおでこにありがとうのキスをして、たらこみたいになった口を治してあげました。
今日も神さまは地球のおそうじをします。妖精たちも、鼻にキスをしてまわります。
地球にはなんともいえない甘い香りがただよい、きれいな心の人たちがたくさんになりました。
おかげで、神さまはおそうじがずいぶん楽になりました。時間がたくさんできました。なので、地球におさまりきらなかったきれいな花々を、雲の上で大切に育てています。