山路力也です。


5月の「容疑者Xの献身」に続いて、
大好きな「演劇集団キャラメルボックス」の舞台
「アルジャーノンに花束を」を観に、
東池袋にある「サンシャイン劇場」まで行って来ました。
前回の観劇のインプレッションはこちらです。


前回のインプレションにも書きましたが、
個人的に原作至上主義と言いましょうか、
自らの体験と想像も重ねて読む小説の世界観に対して
表現的にも時間枠的にも物理的に制限がある
映画や舞台になった作品は絶対敵わないというか、
まったく別物として捉えるべき、という前提があります。

しかし、前回の「容疑者Xの献身」も同様ですが、
今回もキャラメルボックスには驚かされました。
原作へのリスペクトに満ちあふれた演出と演技に、
まずオリジナルへの愛情をひしひしと感じました。
よくぞあの難解な、かつ余りにも有名な作品を壊すことなく、
見事にキャラメルボックスの世界観へと落とし込んだなぁと。


今回はイグニス、アクアのWキャストということで、
最初から両方観たいとは思っていたのですが、
スケジュール的に2日行くことがが難しく、
7日のイグニスを観に行ったわけです。
しかし、あまりにも素晴らしい出来だったので、
これはどうしてもアクアも観なければと、
大切な友人を誘ってこの日の観劇となりました。
3日後に同じ舞台を観たのは初めての経験かも知れません。


イグニスとアクアというチームの名前から、
動と静というのはある程度想像がついていましたが、
ここまで同じ舞台で表現が異なるとは思いませんでした。
キャストとしては主役の二人が違うだけなのですが、
周りの受ける芝居や空気感も変わってくるのです。

そしてその先の展開が分かっているにも関わらず、
最初に観た時よりも二度目に観た時の方が
より深く切なく感じてしまうのは何故でしょう。

随所に張り巡らされた小さな伏線がよりリアルに感じられるのは、
二回観たからこそかも知れません。
その先が分かっているからこそ切ない。


主人公のチャーリィもさることながら、
彼を支えるキニアン先生がとても美しく切なく、
そして、とても愛しく感じました。
舞台の上にいるすべての登場人物の、誰もが優しくて皆が哀しい。
モノローグで綴られる一人称の原作なのに、
あれほど一人一人を活き活きと描けるとは。

人間が誰しも抱える「醜さ」「業」「優しさ」を
真正面から突きつけられ、問われる衝撃。
そしてそっと与えられる「勇気」と「希望」。


劇伴も切なく力強い楽曲が並び、
シーンに見事に溶け込んでいました。
既存の曲からのセレクトかと思いますが、
まるでこの舞台の為に存在していたかのように。
普段サウンドトラックなど買わないのですが、
今回は迷うことなく買いました。


そして文庫化された原作も改めて買いました。
20数年振りに高校生の時に手に取った本を
あらためて読み直すのも初めての経験かも知れません。
初めて読んだ時も確か暑い夏でした。
カミュの「異邦人」と同時期に読んだような。
なんとも背伸びをしていた高校生でしたが、
二度目に読んだ時は、英語の原作も一緒に照らし合わせながら。
そこでこの日本語訳がいかに素晴らしいかも知ったのです。


僕は高校生という多感な時期にこの本を読み、
人間の切なさや弱さ、痛み、色々なことを考えさせられました。
だから、学習塾をやっていた頃に、
まっさきに生徒達のための本棚にこれを置きました。
しかし哀しいかな、ほとんどの生徒が読んでくれませんでした。
それはきっとあまりにも難解だと感じ、
あるいは厚過ぎると感じたからかも知れません。

あの頃中高校生だった僕の生徒達も
今は立派な大人になりました。
きっと今なら君達は読める。
いや、大人になった今だからこそ読むべきだと思うのです。

僕は高校生の時、この本と出逢えて良かった。
そして大人になった今、この舞台を観る事によって
再びこの物語と出逢えて本当に良かった。

東京公演は終わってしまいましたが、
神戸公演が24日まで開催されています。
ぜひこの舞台を観て欲しいと思います。

とても哀しく切ない物語でありながら、
見終わったあとに重い宿題を与えられる。
と同時に爽快感にも近い前向きな気持ちも貰える。
素晴らしい時間を過ごせることは間違いありません。

そして、舞台を観終わった後は友人と一緒に、
前回、キャラメルボックス製作総指揮の
加藤昌史さんに連れて行って頂いた
美久仁小路にある「酔処味彩」を再訪
この日もどの料理も美味しくて最高でした!



【キャラメルボックス2012サマーツアー
「アルジャーノンに花束を」】

東京公演:2012年7月21日(土)~8月12日(日)
 サンシャイン劇場
神戸公演:2012年8月16日(木)~24日(金)
 新神戸オリエンタル劇場