日本政府が2050年迄の実現を目標に掲げた「ムーンショット計画」とはどのようなものなのでしょうか。

 

内閣府のホームページをみてみると、

 

ムーンショット目標1

「 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」とあります。

 

誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター 基盤

2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

 

2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

サイバネティック・アバター生活

2050年までに、望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させる。

 

2030年までに、望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案する。

 

などとあります。

 

 

この前段階として、必要な技術とは脳神経のインターフェース(Brain-computer Interface : BCI)技術のようです。

 

 

■脳活動の全体像の把握

 

引用元から全文をそのままご紹介します。

 

米大学が次世代のブレイン・コンピュータ・インターフェースシステムを開発

ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)システムは、脳や脊髄に損傷を受けた人が体を動かしたり、思考でキーボードを操作したりするなどの自立支援機器に使用される。

 

さらに近年では脳の状態をモニタすることで自身の集中力や認知力を高めることにも応用が進められている。

 

BCIシステムは、脳内に埋め込まれた(または頭皮に貼られた)センサにより脳神経の電気信号を検知し、その信号をコンピュターに送信して外部機器を制御する。現在のBCIシステムのほとんどは、1つか2つのセンサを使っているが、今回の研究ではニューログレインチップと呼ばれる塩粒ほどの大きさのセンサ群を脳内に分散配置。

 

信号を無線でシステムのハブに送り、ハブが各センサからの信号の統合処理を行うシステムを開発した。

 

研究者らはまず、神経信号の検出、増幅、送信に関わる複雑な電子機器を、シリコン製の小さなニューログレインチップに詰め込んだ。次に、これらの小さなチップからの信号を受信する体外通信ハブを開発した。

 

この装置は親指ほどの大きさの薄いパッチで、頭蓋骨の外側の頭皮に貼り付けることで、小さな携帯電話基地局のように機能する。

 

ネットワークプロトコルを使用して、それぞれが独自のネットワークアドレスを持つニューログレインチップからの信号を統合処理する。

 

また、ニューログレインチップに無線で電力を供給する。今回の実験では48個のニューログレインチップをラットの大脳皮質に設置し、脳の自発的な活動に伴う特徴的な神経信号を記録することに成功した。

 

また、逆方向となる脳を刺激する機能もテストした。刺激は、神経活動を活性化させることができる微小な電気パルスで行われた。この刺激は、神経の信号を処理するのと同じハブによって行われ、病気や怪我で失われた脳機能を回復させる日が来るのではないかと研究者たちは期待している。

 

今回の研究では、動物の脳の大きさから、48個のニューログレインチップに限られたが、得られたデータによると現在のシステム構成で770個まで対応可能とのことだ。

 

最終的には、何千ものニューログレインチップにスケールアップすることを想定しており、実現すれば現在では実現不可能な脳活動の全体像を把握できるという

 

参考:

 

 

既に、生体の脳と機械を繋ぐ「ブレインマシンインターフェース技術」という新たな技術の開発が国内でも動物実験で行われています。

 

 

■次世代脳神経インターフェ-ス技術の開発

北大の情報科学研究科西川淳准教授の「次世代脳神経インターフェース 技術の開発と応用」という文章をそのまま引用させていただきます。

 

次世代脳神経インターフェイスを実現するために、多点電極の開発、LSI チップの開発、動物 実験による機能評価を行っています。

 

電極開発では、多数の記録点を高密度かつ三次元的に配 置することのできる多点電極アレイを作成するとともに、神経細胞の電気的活動だけでなく、 神経伝達物質濃度の測定もでき る多機能型多点電極の開発にも着手しています。

 

LSI (大規模集積回路 / Large-Scale Integration)の開発では、 ミリ秒単位で電気刺激と信号増幅を切り換えることのできる 64チャンネルの LSI を開発してお り、計測結果に応じてリアルタイムで電気刺激を変調させるシステムを構築しています。

 

動物実験では、これらを統合したマイクロデバイスを作成し、実際に齧歯類に埋め込み、オペラント条件付けなどの行動実験を通 して、聴覚発声機能の補償をどの程度行えているか調べています。

引用元:

https://sme-univ-coop.jp/wp/wp-content/themes/liquid-light-sanren/pdf/043_081_%E8%A5%BF%E5%B7%9D%E6%B7%B3%E5%85%88%E7%94%9F.pdf

 

 

■LSIによって五感を再現して臨床応用する発想

LSIを人体に組み込んで、五感の例えば、聴覚や視覚について障害を補うための人工聴覚、人工網膜に応用する研究は既に様々になされています。

 

 

東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻教授の小柳光正氏と准教授の田中徹氏の研究グループは、1万フレーム/秒に相当する超高速の動画を数十mWという極めて低消費電力で人工網膜を実現することを目指す研究を行っているようです。

 

東北大学の田中・小柳研究室は,眼球内にコイルやLSIを埋め込み,目の外部から無線で給電する人工網膜の開発を進めている(a)。LSIは3層のチップを積層して,生体の網膜の役割を,順番を逆にして再現した構造を持つ(b)。このLSIは網膜上の視神経に直結して,網膜を代替する。失明者の視覚の回復を目指すほか,新しい視覚センサとして超高速,超低消費電力を実現できる見通しである(c)

 

■眼球の網膜の仕組みをほぼそのまま再現した「人工網膜」

「人工網膜」用LSIは、受光用LSI、出力制御用LSI、変調用LSIを、貫通電極を用いて縦型に積層したもの。

 

当面は,網膜の機能を失ったために失明した人などに向けて,網膜の代わりにこれを網膜の視神経と直結し、視力を回復させるのが目標ということで、LSIへの電力は,眼鏡などに取り付けた電池から,電磁誘導を用いた無線で供給される。

 

現時点では、積層型ではない1枚のチップ上に出力回路などを集積した試験用LSIを、ウサギの眼球などに組み込んで反応を確認した段階なのだそうで、既に,積層型のLSIも設計は終わっている段階なのだそうです。

 

 

■脳の視覚野こそがものを見る本体

小柳氏と田中氏の研究グループは、人工網膜用LSIだけでなく,「視覚野」および「視覚前野」と呼ばれる脳内の視覚情報処理システムの再現にも取り組んでいるそうです。

 

 

網膜は3層の構造に分けられ、視覚野と視覚前野は計6層の多段階に情報を処理する構造になっている。

 

 

脳の視覚情報処理は積層型 視覚情報は網膜から脳まで全て積層型で処理されており、画像の認識や判別をつかさどる連合野に届くまでには、少なくとも6段階の情報処理がなされている。

 

例えば,第1次視覚野(V1)では,特定の角度だけに反応する細胞が多種類並んでおり,物体の輪郭や形状を抽出している。

 

各層には単一の機能を備える細胞があり,必要な情報を段階的に抽出する仕組みになっている。第1次視覚野(V1)には「0度,60度,120度などといった特定の角度に反応する細胞がある。これらの細胞によって物体の輪郭情報が抽出される。

 

ほかにも,脳の連合野という判断をつかさどる部分に到達するまでに,特定の動きに反応する細胞、特定の色に反応する細胞などが視覚データから各種情報を抽出する。

 

 

各処理層には,単純な役割を持つ細胞(単純細胞)群に加えて,隣り合うそれらの細胞の出力を演算処理する細胞(複雑細胞)もある。

 

小柳博士らのグループは既に、これら6層の構造のうちV1を含む3層の処理システムをLSIで再現済みだという。

引用元:

 

私などはマイクロチップを脳(皮下?)に埋め込まれるのはごめんです。2050年頃だと恐らくもういないかもしれませんが。