昨日外来に近医眼科からの紹介で、70代の女性、原因不明の眼痛を主訴に受診された患者さんが来られ、病歴の概略として「40代から、ときどき(春先など年に数回)頭痛を伴う眼痛(いつも同じ片側眼の)が1週間くらい続くことがあったが、今回1か月間続いている」という内容。

 

紹介医はいろいろと点眼薬を処方したが、症状が一向に改善しないので、「内頚動脈海面静脈洞瘻」を疑い、放射線科の画像診断が出来る当院(窓口となる当眼科)に送って来られたという経緯。

 

ここで、「内頚動脈海綿静脈洞瘻」という少々ややこしい名前の病気についてですが、私はこれまで診察したことがなく且つ正直なところ不勉強のため「何それ」状態で頭部MRI撮影をお願いしたところ、運良く放射線科医師がお手隙で即座に画像を読影して下さった。

 

因みにMRIやCT、X線写真などの「画像診断」は放射線科医師の領域で、放射線科医師でないと「診断」と呼ぶことは出来ないというルールがあります。つまり放射線科医師は基本的に「全科の画像診断が出来る」=「全科の疾患を病態学的に理解している」というえらい人々。

 

その患者さんは午前の最後の方に来られたので、放射線科に行ってもらいながらお昼ご飯を食堂でナース達と一緒に食べていたところ、食堂に電話がかかってきて、「どうやら患側の内頚動脈の異常があるようだ」とのこと。

 

内頚動脈海綿静脈洞瘻

■病因

簡単にいうと下のシェーマのように、外傷や非外傷性に、眼球の後方にある脳底部の海面静脈洞という場所の近くで、(眼動脈の親動脈である)内頚動脈からの漏出があり、動脈と静脈が直接つながっている状態、つまり内頚動脈に穴が開いている(瘻孔形成)ために短絡を起こしていることによって、様々な症状が出現。非外傷性の場合、動脈瘤の破裂が原因であることが多いなど。

 

 

■症状

瘻孔の大きさにより色々な症状が現れる。例えば

①頭痛(三叉神経痛)・複視(ものが二重に見える)・眼球の充血・拍動性の突出・眼圧上昇

②耳鳴り等の軽い症状

③脳内に逆流すると脳梗塞・頭蓋内出血を生じること場合や、脳動脈の方へ血流が流れないために虚血症状が出現することも。

従って重篤な場合③のために死亡したり、重い後遺症を生じることもある。

 

■治療

治療の目的は

①視力障害、眼球運動障害の固定に対する治療

②脳内出血、脳梗塞を防止する事、現在存在する症状を改善すること。

そのために脳血管撮影、MRI、CTなどの検査をし、様々な角度より治療法を検討。

③脳血管内治療(経大腿動脈的に海綿静脈洞に達し、その部にバルーン(風船)を留置することにより内頚動脈の瘻孔を塞ぐ方法)など。

③は血管造影検査も含めて脳外科にお願いする領域となります。

 

引用元:https://www.med.kindai.ac.jp/nouge/disease/informed/2/4/4_3.html

 

さて、放射線科医師が読影した画像診断によると、

「患側の内頚動脈が海綿静脈洞辺りにかけて(健側に比べて)口径不同があり、血管造影検査を行ってみなければ漏出については診断できないものの、脳底部に動脈瘤がある。その他、陳旧性のラクナ梗塞あり」という内容。(だったと記憶しております)

 

眼痛の直接の原因はこの病気に伴う眼圧上昇(近医眼科が初診でみたとき眼圧が高く、眼圧を下げる目薬が処方されていた、と記憶)及び(眼球突出などは肉眼的にはないものの)健側に比べ患側にはドライアイがベースにあった?(前医眼科で既に対症療法がなされていたのか角膜表面にドライアイによる角膜炎所見はなかったが・・・)

因みに、両眼に加齢性白内障があり、矯正視力は健側が(0,8)患側が(0.4)と、患側の方が低下。眼圧は正常範囲。眼底所見は特記事項なし、視神経乳頭の異常所見はなく、続発性緑内障などを示唆する所見などは特になし、でしたが。

 

いずれにしても頭頚部の「血管造影検査」などの更なる精密検査は脳外科の領域なので、本院病院の脳外科に紹介することになり、「動脈瘤などの加療や精査目的」で私も他科宛の紹介状を午後一で書いたのでした。

 

後記

今日は仕事がお休みなので家でこれを書きながら、自分の日頃の不勉強を反省しているところでございます。これまで診たことがない珍しい疾患に出くわす度に勉強させて頂いているという次第。