「駄目だ。どこにも隙がない」
「どうする?姐さん。あれじゃあ、屋敷に近寄る事すら出来ないよ」
ジホとシウルは途方に暮れた様子で、店先の椅子に腰を下ろした。
町中に配置している構成員から連絡が入ったのは、今朝早くのことだ。
日頃はキム家の敷地内を警備している私兵達が、今日はなぜか鼠一匹通すまじとばかりに、屋敷の周囲一帯をぐるりと取り囲んでいるという。
司憲府(サホンブ)の大司憲(テサホン)であるキム・ヒョクという男の怪しげな策動については、かねてより手裏房でも把握しており、行幸啓の間もキム家の屋敷から目を離さないようにと、ヨンからも頼まれていた。
(一体どういうことだい?大司憲は王様と共に開京を離れているはずじゃ…)
大司憲の私兵を、本人以外に自由に動かせる人物でもいるのだろうか。
縁戚の男が滞在していると聞いてはいるが、重い病に臥せっているらしく、その線は薄い。
珍しく自分から酒の手を止めた兄の横で、私があれやこれやと頭を捻っていると、新しい報告が飛び込んできた。
皇宮所有と思しき馬車がキム家の屋敷正面に乗り付けられ、なんと中から姿を現したのは医仙だというのだ。
御者の迂達赤兵を残したまま、ひとりで屋敷内に迎え入れられたと聞いて、現状は一気に緊迫感を増した。
医仙のそばにテマンが付いていない時点で、何か不測の事態が起こっているのは間違いない。
一通り報告を受けた兄は、私に向かい「上手くやれ」と言ったきり姿を消した。
何にせよ、情報不足もいいところだ。
出入りの商人を装い潜入を試みさせたが、すげなく追い返されてしまった。
偽造とはいえ、大司憲の筆跡を真似て作らせた書状を携えていたにも関わらず、だ。
これで私兵に指示を出せる人間が屋敷内にいる事は確定した。
そこに医仙の身柄がある以上、こちらとしても一刻も早く暗中模索の状態から脱しなければ、との焦りばかりが募っていく。
「他に打つ手はないもんかねぇ…」
最初の報告を受けてから、時は既に一刻半を経過しようとしている。
私の嘆きに対して、ジホとシウルも為す術が無いと言わんばかりに肩をすくめて見せた。
そんな二人の襟首をひっ掴んで、再び偵察に追い立てようとした時ーー。
「姐さん!その子達を貸して頂戴!」
いつもは飄々とした態度を崩さない『白いの』が、珍しく慌てふためいた様子で駆けてきた。
「なんだい、藪から棒に」
「キム家の屋敷に動きがあったの!」
「本当かい⁉︎」
「あたしが屋敷から少し離れたところで見張ってたら、典医寺の医員らしき子が駆けつける姿が見えたのよ。裏口で何かを焚いたみたいで、周囲の兵が次々と倒れ始めて…」
身を乗り出した私の手からジホとシウルがするりと抜け出し、柄巻きを締め直したり矢の補充をしたりと、忙しなく動き始める。
「こっちはひとりだから、その時点で突入するわけにもいかなくて、しばらく様子を窺ってたの。でもなぜか倒れた兵士の代わりが配置されただけで、何事も無かったように静かなままなのよ」
「妙だね。その医員は?」
「出て来ずじまいよ」
「摘み出されたにせよ、用件が済んだにせよ、その医員が屋敷から出てきたら、話を聞けただろうに。当てが外れたねぇ。で?あんたはそれで戻ってきたのかい?」
すると『白いの』が、はっと柳眉を跳ね上げた。
「違うのよ!屋敷の周囲を固めていた私兵達が一斉に引き上げ始めたの!」
「何だって⁉︎それを先にお言いよ!」
私は透かさず振り返り、ジホとシウルに対して容赦なく発破を掛ける。
「いいかい、あんた達!医仙の身に何かあったとなっちゃ、ヨンもただじゃ済まないと心得な!」
神妙な顔で頷いたジホとシウル、そして『白いの』も、脳裏に思い浮かべているだろう。
医仙の横で穏やかに笑んでいた、ヨンの顔を。
(医仙、頼むから無事でいておくれ…!)
ちょうどその時、聞き覚えのある恐ろしく早い足音が、蹄の音を従えて迫りつつあった。
「マ、マ、マンボ姐!!」
飛ぶように駆けて来たのは、身形の良い男を伴ったテマンだった。
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…って、浮かれてた自分を殴りたい(苦笑)
記念にお話をひとつ用意してたんですよ。
酔っ払いヨンが「かわいい、かわいい」と、ただひたすらにウンスを愛でまくるだけの、中身の無いお話ですが💦
私は以前どこかで、我が家のヨンに「かわいい」と言わせる事に対して、凄い違和感があるとお話しした気がします。
ですが最近になって「酔っ払った状態ならそういうのもアリなのかなぁ?」と思うようになりまして…(^_^;)
(アメ限で二人をイチャイチャさせ過ぎたせいかもしれませんね…笑)
まぁきっと一定の需要はあると思うので、いつかまた皆様にお目見えする日まで、お蔵入りにしておきます♡