『あの人を助けたい一心で、ソウルを走った。あの時、どこでボタンを掛け違えたのだろう?再びあの人のもとへ帰るには、何が必要だったのか。足りなかったのは、想う気持ちか、信じる気持ちか。』


そう手帳に記しながら、色褪せない愛しい顔を思い浮かべた。


私は今日も信じてる。


あの日あの人は助かったのだと私は信じてる。





つまみを1品注文すると、横を通りかかる、懐かしい鎧を身に付けた兵士に尋ねた。


「なぜ高麗の兵士がここに?元の領土にいて平気ですか?」


訊けば、元から大護軍(テホグン)が、鴨緑江(アムノッカン)より西を奪還したと言う。


「先代の王の名を、教えていただけませんか?」


「忠定(チュンジョン)王だ」


束の間の喜びが湧き上がるだけど喜ぶのはまだ早いと、自制する。


ここでは、あれからどのくらいの年月が経っているのだろう。


「では今の王が即位して、何年経ちますか?」


5年だという答えを聞いて、頭が理解するより早く、おい!と言う太い声に意識を取られる。


ドン!と槍の石突を床に打ち付けるその姿には、嫌と言うほど見覚えがあった。


(トクマンさん


「あの配置は何だ。外の奴らを見てみろ」


「改めます。守備を2重にしますか?」


少し萎縮気味に提案する兵士に向けて、声をかける懐かしい面影がもう一つ。


「確実に、しっかり守れ」


叱責を受けるその兵士の肩をポンと叩くと、テマンさんが吃音もなく、恋しくてたまらないあの人が言いそうなセリフで場をまとめた。


4年の月日を目の当たりにして、動けずにいた私の視界の端に、貫禄の増したチュンソクさんも姿を現す。


「大護軍(テホグン)は?」


「いつもの場所です、あの木の所へ。差し入れしないと行くと、3日は帰ってこない」



(テマンさんが甲斐甲斐しく働く相手で、あの木の所にいる人



ふわふわした頭の中で3度復唱した後、突然我に返る。



もう、いてもたってもいられなかった。


私は全てを放り出し、無我夢中で飯屋を飛び出した。