Viva Video!久保田成子展② | 散策日記Ⅰ

散策日記Ⅰ

美術館&博物館で開催された展覧会の記録、それにまつわる散策記です。

先日の続き。本文は国立国際美術館の展示パネルから引用しました。

 

 

4.ヴィデオ彫刻の誕生

 

ヴィデオカメラを使ってシングルチャンネル・ヴィデオ作品を制作したり、またその素材を用いて即興性のあるパフォーマンスを試みた久保田でしたが、映像を用いた表現に、より造形的な要素を持たせたいと考えるようになります。

 

 

観る人が画面の前に座り続けなければならない上映形式よりも、ヴィデオの時間から緩やかに解放され、より主体的に鑑賞できる映像作品を目指したのです。こうして久保田が「ヴィデオ彫刻」と呼ぶところの、彫刻と映像を組み合わせた立体作品が生まれました。

 

 

その最初期の作品《ヴィデオ・ポエム(1970-75/2018)》は、映像によるセルフ・ポートレイトを組み込み、ヴィデオならではの思い切った色彩加工を用いた、ヴィデオと女性の勝利を謳ったユーモアのある作品です。

 

 

その後、マルセル・デュシャン(1887-1968)と出会い、彼に対する敬意から、「デュシャンピアナ」シリーズの制作に取り組みます。

 

 

美術家でありチェスの名手でもあったデュシャン。こちらは、デュシャンと作曲家ジョン・ケージ(1912-1992)が、音響装置付きのチェス盤を挟んで共演した時の画像です。

 

 

久保田は、その時の映像を、チェス・コンサート「リユニオン(1968)」として発表する予定でしたが、デュシャンの急逝きゅうせいにより、ボツ。代わりに、写真と音源から成る作品集「マルセル・デュシャンとジョン・ケージ(1970)」を発表しました。

 

 

そして1972年。フランスでデュシャンの墓参をした際の記録映像を撮影。これをモチーフに、最初の「デュシャンピアナ」シリーズとなる《マルセル・デュシャンの墓(1972-75/2019)》を発表したのです。

 

 

その後も制作は続き、1976~77年には、ニューヨークのルネ・ブロック・ギャラリーにて、一連の「デュシャンピアナ」シリーズが発表されました。

 

《デュシャンピアナ:ヴィデオ・チェス(1968-75)》

 

 

《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体(1975-76/1983)》

 

 

《デュシャンピアナ:ドア(1976-77/2021)》

 

 

《メタ・マルセル:窓【三つのテープ】(1976-83/2019)》

 

 

《デュシャンピアナ:自転車の車輪1,2,3(1983-90)》

 

 

 

「デュシャンピアナ」シリーズによって高い評価を得た久保田は、その後欧米を中心に大規模な国際展を含む数多くの展覧会に招待されるようになり、国際的な作家として活躍の舞台を広げました。

 

 

なかでも《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体(1976)》は、1981年にニューヨーク近代美術館が初めて収蔵したヴィデオインスタレーションとなりました。

 

 

このシリーズは、デュシャンの流用に留まらず、ヴィデオというメディアの特性を活かしつつ、生と死の間を往還するような普遍的な主題を表現しています。

 

 

つづく