今や日本大学の理事長としてマスコミを賑わかす女流作家である。

本人は、理事長となってこんな騒動に巻き込まれることを予想しえたであろうか。テレビでは気難しそうな、冴えない顔しか見ることが出来ない。

 林真理子は、現在も「週刊文春」にエッセイを連載しているように、小説家よりエッセイストとして広く知られているように思う。私もエッセイを読むともなく読んだことはあったが小説は一度も読んだことがなかった。そこでこの作家の『最終便に間に合えば』と『星影のステラ』という短編を読んでみた。

 

 『最終便に間に合えば』は、男と女の微妙で複雑な心理を描いたものである。すでに結婚し子供もいる男に今もなお執着してしまう女だったが、もう一泊していけと執拗に迫る男をふりきり、毅然として自分の道を歩んでいこうとする。だが、馴れない自分にどうしても揺れ動いてしまう。

「庇護されたい思いと庇護したい思いが絡み合う」などという女性の微妙な恋愛心理が吐露される。おそらくその心理は女性特有の心理、あるいは女性の本能的なものかもしれないと私は理解するのである。

 一方『星影のステラ』は、女と女、同性における恋愛感情のようなもの、その三角関係に揺れ動く女心を描いたものである。友情なのか恋愛なのか。ここでは嫉妬という感情が物語の端々に漂っているような作品である。

 

 作者林真理子は、コピーライターから作家になり、『最終便に間に合えば』他で直木賞を受賞。この時の選評に「現代女性の欲望と本音を正直に描いた」というものがある。この作家の本領は、やはり現代女性とくに世間の片隅で傷つき悩みながらもしたたかに恋をする女性たちを巧みに描いたものであろう。

恋愛とは、昔風に言えば「色恋」である。色と恋は『源氏物語』以来の日本の伝統である。林真理子には『源氏物語』の現代語訳もあり、その「色と恋」の伝統にあくまで忠実に、ある意味で求道的に描いているようにも思えるのである。