会社を退職して5年が過ぎ、何もしないと身体に悪いと、午前中はジムで汗を流し、午後からは録画した映画を観て気持ちを高揚させたり、感動したりして過ごしている。
映画はクリントイーストウッドが監督主演した作品が気に入っている。
中でも、「グラントリノ」や「運び屋」はクリントイーストウッドのこれまでの人生観、生き様が映画を通して訴えかけてきて、古希を過ぎた我が身に深く沁み込んでくる。
▶グラントリノ
「グラントリノ」とはフォード全盛期の名車の名前である。今やトヨタの後塵を拝するフォードのこの車が最高だと信じて疑わない頑固な老人がアジア系移民の少年と友情を育んでいく。
アメリカが一番との気難しい主人公がアジア系少数民族との交流を通じて自分の偏見に気づき葛藤する姿が胸を打つ。
米国の成長を支えてきた白人労働者を主人公に据え、価値観の相違を克服しながらアジア系移民への理解を深めていく物語は愛情に満ちている。それは各層の対立が問題化しているトランプアメリカにかすかな希望の光を照らしているかのようだ。
▶運び屋
90歳になろうとするアールストーン(クリントイーストウッド)は打ち込んできた商売に失敗し、ないがしろににして来た家族にも見放され孤独な日々を送っている。ある日「車で荷を運べば金をやる」と話を持ち掛けられる。何の疑いもなく荷を運ぶが、それはドラッグの運び屋であった。
アールは報酬の高さに驚くが、そこで得たお金で多くの寄付をしたり、愛想をつかされた家族との関係を取り戻そうとする。
ピックアップトラックでドラッグを運ぶハイウエイ沿いに流れる風景は彼がこれまでの人生で見落としてきたものを象徴している。
穏やかな風景は彼が軽視してきた家族の大切さを観客に再認識させる。
終盤には家族との確執も解消するが、結末は衝撃的である。
その衝撃の中でトビー・キースの”Don't let the old man in"が静かに流れてくる。
トビー・キースの静かに語る言葉の一つ一つが胸を打ち思わず涙がこぼれる。
「老いを迎え入れるな もう少し生きたいから 老いに身をゆだねるな ドアをノックされても」と何度もリフレインされる。
「絶対に年寄りだと思わないこと」が若さの秘訣であるというイーストウッドの言葉にインスパイアされたキースの叫びは同時に我々の静かな叫びでもある。
学生時代に聴いたボブディランやS&Gを聴いて若さを取り戻すのも良いが、トビー・キースの静かな歌声を嚙みしめる夜もまた良い。
前田