2014年6月下旬に、公益財団法人北海道文学館(通称道立文学館)の第5代目理事長に、北大名誉教授でロシア文学者の工藤正廣先生が就任されました。



工藤正廣理事長


工藤先生は、札幌を拠点にロシア文学研究、翻訳のほか、詩人としても活動されておられます。私の友人が先生からロシア語を習っていましたので、私もいつか・・・・と思っていました。昨秋、NHK文化センターの短期集中講座で工藤先生が講師で「ボリース・パステルナークの『ドクトル・ジヴァゴ』を読む」という講座があり、初めて先生の講義を受けました。




NHK文化センターからのご案内



当日のテキスト



あ、誤解のないように、今回はロシア語ではなく、日本語のドクトル・ジヴァゴがテキストでした。というのも、先生は、2013年4月に、ドクトル・ジヴァゴの翻訳本を出版(未知谷)されたのです。




工藤先生が翻訳した「ドクトル・ジヴァゴ」


NHK文化センターの講座には、ロシア語講座で先生と縁が深い方たちがお集まりのようでした。先生は、ロシア文学が好きで好きで仕方がないといったご様子で、休憩時間に入ってからも切れ間なく話しておられました。だから、先生がちょっとしたエピソードを紹介されるときも、皆さんしっかりと受け答えしておいででした。


この講座で嬉しかったのは、パステルナークが、詩の朗読をしているのを収めた録音テープを聞かせてくれたところです。また、ロシア人女性による『ドクトルジヴァゴ』の冒頭の文章の朗読テープも聞かせてくれました。いまだロシア語を理解しない私にはもったいないくらいのチャンスでした。


たったこれだけの出会いですが、このたびの北海道文学館の理事長就任にとても喜んでおります。


これまで先生は、パステルナークの作品では、多くの詩集を翻訳されてきました。いつものことながら、私は残念ながらそれらは読んでおらず、パステルナーク作品で言えば、たった一編の訳詩のみ目にしました。しかも、訳者は別の方です。




執筆中のパステルナーク




画家であった父と幼少のとき


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草鹿外吉訳「現代ソヴェト詩集」より  冬のおとずれ(1944年作)

飯塚書店版


戸が開いた、 と台所に蒸気のように

かけ込んできた 外の大気が、

すると すべて一瞬に 昔にもどった、

子供のころの あの夕ぐれのように。  以下省略


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ソネット形式の素敵な詩です。が私には、この中で区切られる句読点や文節の意味が難しそうで、ソヴェト文学の中で占める詩文学の重要性、特にロシア語自体が持っている音楽性やロシアの国土・風土が示す雄大な自然と、昔から語り継がれてきた歴史的叙事詩など、学びなおす必要すら感じさせられます。


身の丈以上のことなど一朝一夕には取り組めませんが、日本語ですが一編の詩を読む楽しみも出来ました。


ほかに工藤先生の本は持っていないかなと、本棚をゴソゴソと探した結果、詩集が一冊だけありました。



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ロシアの恋 1953-1991 (2001年8月)

未知谷出版



東北は津軽出身の先生が、広大無辺なロシアを漂泊する魂の旅路をたどるかのごとくつむいだ抒情、表題の中の数字はスターリンの死去からソヴィエト連邦崩壊までの激動の40年を表しています。



工藤先生の詩集「ロシアの恋」



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表紙に使われた写真は絵葉書のようなのですが、フェンスの向こうに見えるのは、かつてパステルナークに貸与されたソヴィエト連邦作家同盟の建物、美しいデザインのダーチャのようです。





この建物は、モスクワの南西部、キエフ駅から郊外電車で40分ほど行った町ベレジェルキにあります。(行ったことないです)今はパステルナーク記念館として公開されているそうです。




資料画像:インターネットから

人事から話は大きくそれました。σ(^_^;)


さて嬉しい人事のもうひとつのサプライスは、7月よりこの公益財団法人が管理する北海道立文学館の館長に、札幌在住の芥川賞作家、池澤夏樹氏が就任することが内定したというニュースです。




池澤夏樹氏              1988年に芥川賞を受賞した

                      「スティル・ライフ」



少し前のニュースで、池澤氏は個人編集の日本文学全集の編集に取り掛かると知り、そちらでもワクワクしながら注目していたのですが、これまでは工藤正廣理事長が館長を兼務していたとのこと、どちらかというと文学館の館長には行政サイドの人選が多い中、北海道には最適な文学者コンビの誕生が実現したという気がします。


メラメラ チョキ


工藤理事長は、池澤夏樹氏の就任を機に「北海道の新しい文学の動きを全国に発信し、研究や連携を深めたい」といっているそうです。







この本、すっごく重たいんだよ!!