- 晩年の子供 (講談社文庫)/山田 詠美
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何となく、今生きてて楽しいな、とか幸せだな、とか思うとき、
で、さらに、精神的にも物理的にも余裕があるとき、
わたしは詠美さんの本を読みたくなる。
それはたぶん、わたしの中の無意識な部分で、
この幸せ感を持続させるためには、
感受性豊かな詠美さんの小説を読むのが効果的
だと分かっているからだと思う。
詠美さんの本を読むと、自分の中の感受性も刺激を受けるから、
幸せなときはもっと幸せになるし、
悲しいときはもっと悲しくなるし、
切ないときはもっと切なくなる。
この小説の舞台は「小学生の夏休み」。
詠美さんの独特な「小さな大人」の目線で、
友人や家族や淡い初恋、教室での出来事などを描かれてるんだけど、
詠美さんってほんと、子供から見た世界を描ききる作家さんだなーと思う。
「感情を記憶する能力が高い」というのは自他共に認める才能だけれど、
子供が見る世界を、子供から見ても大人から見ても
とてもイメージしやすく、分かりやすく描くのがすごく上手。
わたしが中学生のとき、近所の塾に通っていたんだけど、
国語の問題で出てきた文章が良すぎて、
「せんせ~~あたしあの文章好きーー
」って言いまくってたら、
そこの事務員のキレイなお姉さん(青木さん)が
手紙と一緒に「放課後の音符」をくれた。
(問題の文章はこの本に出てくる短編の一部だった。)
青木さんは詠美さんが大好きらしくて、この本を二冊持ってたみたい。
手紙はどこかへ行ってしまったので詳しくは覚えてないけど、
青木さんも中学生のときに誰かからこの本をもらって、
今でも自分の中でとても大切な本だから、
そういう本をわたしにあげることができて嬉しい、
みたいなことが書かれてあった。
たぶん、青木さんは当時大学生か大学を出たばかりだったと思うけど、
中学生の私にとって青木さんはすごく素敵な大人の女性だったから、
そんなひとに貰ったこの繊細な一冊を、とても丁寧に読んだ記憶がある。
この本は、表紙の上に薄い紙がかぶせてあるんだけど、
自分が少しでも適当な気持ちで触ったらすぐに破れてしまう、
この紙を破ってしまったら、きっと、取り返しのつかないことをしたと思って後悔するんだろうな・・・というのが分かっていたので、
触るときはいつでも壊れものを扱うように慎重だった。
その内容も、自分の周りにはいないような素敵な子たちが主人公なんだけど、
その子たちに共感できて気持ちが理解できて、感動までできるって、
自分は気付かぬうちに大人の仲間入りをしてたんじゃないかしら、
と、当時は完全に詠美さんの術中にはまっているということも知らぬまま、
数ヶ月くらいは過ごしてたと思う。
詠美さんの本に出てくる「小さい大人」は、
みんなとても素敵で少しマセていて、
将来はきっと、相当魅力的な大人になるんだろうな
という雰囲気を醸し出している。
だから、主人公と同年代の時期に詠美さんの本を読んで、
主人公と同じ気持ちになれたり、理解できたりするということは、
自分も同じように、魅力的な素質を持っているんだ、という錯覚を起こす。
そして、大人になってからこの本を読むと、
子供が持つ特有の切なさや、あきらめや、絶望といった
忘れかけていた感情を思い出し、
そういう感情を理解した上で、一歩引いた冷静な視点で世界を眺めることができるようになった自分に喜びを感じる。
そういう素敵な立ち位置にいるのは詠美さんだっていうことは知ってるけれど、
詠美さんの視点がまるで自分のもののように感じられ、錯覚する。
小説で、ここまで気持ちよく錯覚を起こさせることの出来る作家さんって、
なかなかいない気がします。
詠美さん大好きー