“落としの達人”との異名を持つ水木正一郎を、いかりや長介が演じる「取調室」シリーズ第16弾。
佐賀市内にある旅館の離れの一室で、金融業を営む常連客の矢崎幸之介(久保晶)の他殺死体が見つかった。目撃者はいなかったが、矢崎の娘・久美子(佐藤直子)の話からすぐに女社長・汐見ユカ(草笛光子)が容疑者として浮上した。現場に散乱していた高級ワインのビンのかけらからユカと同じ型の血液が検出され、さらにその手にガラスで切ったような傷跡があったことから、捜査陣はついにユカの逮捕に踏み切るのだが――。


①金融会社社長 矢崎幸之介

②発明家 三津田孝司

 

娘が犯人だと名指ししたのは製作所社長 草笛光子。

彼女の会社は捜査二課が証券取引法違反で内偵する矢先だった。

会社は20年前に光子自身が築き、最初は小さな町工場だったが今では半導体分野まで進出し、従業員120人の優良企業に。

3ケ月前、2年前に雇った発明家 三津田孝司が「画期的技術を発明した」と光子が発表。

会社の株が上昇するが、発明が嘘ではないかとの疑問の記事も出て、真偽を廻って乱高下する事態に。

光子は2週間前の緊急株主総会で、発明家から直接、本当であることを証言させるつもりだったが、発明家は姿をくらましてしまう。

総会で先頭を切って、彼女を追及したのが矢崎。

彼は発明家に詐欺の前科があることをばらし、知らなかった光子は唖然としたという。

矢崎は経営責任を問い、彼女に社長退陣と研究の為、個人的に借していた8000万円の返却を求めた。

追い詰められていた光子には矢崎を殺す動機がある。

 

事件当日の22日

矢崎は15:00会社を退社し、16:00近くにデパートで高級ワインを購入。

17:00にマンションで管理人に姿を見られたのが最後。

「大事な客がくる」と話していたという。

死亡推定時刻は19:00~23:00。

矢崎は会社を出る時に「光子の好きなワインの名前は何だ」と聞いていた。

ワインは彼女の為に用意したと考えられる。

光子の会社の専務 井川比佐志によると、光子は4日前から関西に金策で出張中。

事件当日も大阪から電話があったと話す。

自宅に帰ってきた光子は刑事の姿を見て逃げ出した上に暴行を働き、公務執行妨害で逮捕される。

現場で割れていたワイングラスから光子と同じ血液型の血痕が検出され、彼女の手の平には何かで切ったような傷があった。

殺人容疑に切り替えられて取り調べをうけつ光子だが、アリバイを詳しく話そうとしない。

 

そんな彼女にもう一つの殺人容疑が掛かる。

23日、神奈川県の城ケ島で発明家 三津田の死体が発見された。

十数メートルの崖の上からの転落死。

死亡推定時刻は矢崎と同じ日の20:00~24:00。

たとえ、矢崎を19時に殺したとしても、その後で神奈川で殺人を犯すのは無理。

誤認逮捕なのか?

 

三津田は横須賀の旅館に19日から宿泊し、20日と22日に光子から電話が入っていた。

光子は20日に油壷の観光ホテルを訪れ、彼に電話した直後、タクシーで発明家の旅館に向かい、そのまま宿泊。

翌日2人でバスに乗って城ケ島へ行き、その日は別々のホテルに戻ったが、

22日の朝、光子は三津田に電話した後に「城ケ島に行く」とホテルの人に話し、タクシーを呼んだ。

光子がホテルに帰ってきたのが翌日23日の09:50。

コートを泥で汚し慌てた様子でホテルの人間に時間を聞き、ホテルを引き払っていた

 

三津田の方は死んだ22日の朝、旅館を出ると、11時近くにバス停で光子と話している姿が目撃されている。

最初は自殺と考えられたが、光子の動きが極めて不自然なことと、現場で彼女の腕時計が発見されたことから光子に容疑が向く。

更に発明家が死ねば、彼に騙されたと罪を被せれば、光子は罪に問われることはなくなる。

彼は男性もののハンカチを握りしめて死んでいた。

 

動機、犯行時間、証拠、目撃者。

神奈川県警は「光子が発明家殺しの犯人だと証明できる証拠は全て揃っている」と光子の引き渡しを求められる。

しかし水さんは証拠が揃い過ぎていることが気になる。

 

光子は発明家殺しも否定し、無理心中を強いられたと話す。

彼女曰く、19日に発明家から電話があり、自首を勧める為に神奈川に向かった。

発明家は昔の恋人で2年前に彼女の記事を見た彼が会いに来てくれた。

研究所といくつかの特許を持っているという彼の話にそそられた光子は彼に賭けてみることに。

自宅と自社株を担保に矢崎から5000万円を借りて、自宅敷地に研究所を立て、その後2年で3000万円を追加で借りた。

3ケ月前に「発明に成功しそうだ」と報告を受け、嬉しさのあまり、新聞記者にうっかり話してしまったことで、大騒ぎになってしまったと。

昔恋人だっただけで発明家の全てを信じてしまったという。

 

発明家は「失敗はしたけど詐欺ではない」と。

体が弱いから懲役に耐える自信が無いと絶望的になった発明家が城ケ島で「一緒に死んでくれ」といきなり崖から突き落とされそうになった。

光子は急斜面を滑り落ち、気が付いたのは翌日の朝。

崖下に発明家の死体を発見し夢中でその場を離れて、ホテルに戻った。

取り調べでその事を話さなかったのは殺したと疑われると思ったからと供述する。

 

発明家とは結婚するつもりだったのだから彼を殺す理由は無いと話す光子。

研究が成功したら、専務たちに任せて引退し、彼と第二の人生を始めるつもりだったと。

しかし、水さんは愛する人が倒れているのを見たのに逃げ出したのが腑に落ちない。

彼女が殺したのは矢崎、それを隠すために発明家の死を利用したのでは?

2人がバス停で目撃された22日午前11時から、23日の9:50でのホテルまで彼女の目撃証言はない。

 

発明家はアメリカに住む兄に「光子と心中する」という遺書を送っていた。

しかし、家政婦によると発明家は思っていたかもしれないが、社長は仕事以外に興味は無い。二人の間には何もなかったはずだと。

光子の自宅の仏壇には2年前から、誰かは分からない位牌が一つ加わっていた。

 

水さんは2年前まで三津田の研究所があった川崎へ。

3年前、地元の不動産屋に三津田のことを調べに興信所の人間が訪ねてきて、彼の死んだ妻のことを色々聞いて行ったらしい。

三津田が詐欺で逮捕され、執行猶予にされたが妻は身を崩して病死。

その後、興信所は光子を連れて再び訪れていた。

光子は三津田の方から会いに来たと言っていたが、実際は逆。

それに彼に詐欺の前科があることも知っていたのだ。

三津田が握りしめていたのは光子のものだったことも判明。

 

専務の井川比佐志が矢崎を殺したのは自分だと自首してきた。

彼は総会後、社長と矢崎が2人だけで話し合っていたのを盗み聞きをした。

矢崎は「借金を返すか、自分と結婚するか」どちらかを選べと光子に迫っていた。

愛情からではなく、矢崎は8000万円で4億の会社の資産を手に入れる狙いがあったのだ。

光子の会社への思いを踏みにじる矢崎が許せず、殺したのだと自供するが…彼の血液型はO型。

彼は光子を愛し、光子も同じ思いだった。

 

位牌は三津田の妻、そしてずーっと興信所を使って探していた光子の妹のものだった。

三津田は光子の恋人ではなかったのだ。

小さな町工場をしていた両親は経営に生き詰まり、自殺。

妹は養子に出させてしまい消息不明、光子は施設に。

それからの光子は両親の無念を果たしたい思いで事業を起こして成功。

成功を分かち合いたいと思い妹を探し始め、やっと見つかったと思ったら、妹は死んでいた。

最初は三津田を恨んだが、妹は死ぬ寸前まで夫のことを信じ、愛し合っていた夫婦だったことを知った。

光子は「発明が成功したら、両親の果たせなかった夢を実現するんだ」と自分と同じことを考えていた妹の夢を叶えようと考えた。

自分が三津田の研究を成功させてやろうと思ったのに失敗。

「逃げ出した責任を取って自殺する」と電話があって、神奈川へ向かったのだった。

 

井川が矢崎殺しで自首したことを聞いた光子は「専務は殺していません。矢崎を殺したのは私です。」と涙ながらに自供。

彼女はやはり、矢崎殺しのアリバイ作りに、三津田を利用したのだった。

自殺を止めにいったのではなく、心中話を持ち掛けてその気にさせるのが目的だった。

1人で死ぬ度胸などない三津田が自分に好意を持っていることを知っていた

「捕まる位なら毒を飲んで死ぬ。会社の整理の為に佐賀に戻る必要がある。別々の場所でも約束の時間に一緒に死のう」と。

対する三津田は「1人で死ぬのは寂しいから、あなたのハンカチをくれませんか?」とお願い。

そして光子に言われるままに兄宛の遺書を書いた。

事件前日、光子は城ケ崎で腕時計をワザと落とし、無理心中の偽装。

当日はバス停で三津田に会ってから飛行機で福岡へ行き、買っておいた中古車で矢崎のマンションへ向かったのだった。

水さんは三津田が果たして心中だと信じて飛び込んだのか?と疑問に思う。

彼は自分が死ぬことが光子の為になると考えて飛び込んだのではないだろかと…。

 

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