ある方が「歌舞伎役者の人は、湧氣塾に稽古にくればいいのにねぇ」とおっしゃいました。それは、着物を着る日本人の体型を身につけてほしいと言うのです。日本人が着物を着るのと、西洋人が着物を着るのでは、からだの線がぜんぜん違います。


もともとの体型の違いも大きく、足の長い西洋人は腰も高くからだの全体の重心が上の方にありますが、日本人のからだは腰がしっかりしていて、からだの重心は腰より下にあります。西洋人はからだが立体的なので、洋服が体型にあっていて、からだが立体的ではない日本人は着物の直線的な形がよく似合うのです。


ところが、体力をつけるために歌舞伎役者が筋肉トレーニングをしているというのを知って、先の方が「湧氣塾に来てほしい」と言うことをおっしゃったわけです。


もともと日本人の体型を筋肉トレーニングで鍛えてしまいますと、からだの線が西洋人の形に似てきます。ということは、直線的な着物を着ると着物がからだにそぐわなくなってきて、歌舞伎のイキな動きや時代劇の着流し、侍の颯爽とした立ち回りなどは期待できなくなってしまいます。


なんともいえないスッーとしたイキな着物の感じは、筋肉モリモリのからだでは着こなせないのです。からだのキレは骨格が表すものなのです。女性で言えば柳腰という浮世絵に出てくるような妖艶な姿を表す言葉もあるように、日本人独特の体型をぜひ身につけてもらい、美しい見栄を切ってもらいたいというのがその方の望みだと言うことでした。