第五章 チューリッヒ
緊張した一瞬が過ぎ、ガイザーが口火をきった。
「ジャック、スイスへようこそ」
「二コラ、まず私の話を聞いてくれ」
「OK..どうぞ話をつづけてくれ」
打ち解けた雰囲気で会話ははずんだ。
「実は、イルバトンもいよいよ時計業界に進出しようと決断したんだ。
ついては、エトのムーブメント(時計の心臓部分)を提供してもらいたいのだが」
ルノーにしては、ややトーンダウンした肉声だった。
ガイザーの気迫に押されている自分を実感していた。
「0K. 何も問題ない」
「本当かい」
あまりにも素早い返事はルノーに戸惑いを感じさせた。