ビジネスの基本はお客さんが商品、サービスを受けた直後に満足してくれたかどうかだ。
喜んでいただければそれで良し、後は何も望まない。金は後からついてくる。
世の中、そんな基本なしでも稼いでいる人達もいる。
謙太郎はあくまで手作りをつらぬき通す職人である。
鶴田浩二の「古いやつだとお思いでしょうが」でい。
ここは過疎の街。
この街の人通りの少ない商店街に「マグロラーメン」の看板をぶら下げた小さなラーメン屋がある。
その通りには何件もシャッターを閉めっぱなしの店もある。
その隙間にポツンとラーメン屋がある。
ちょいと昼には、早いが謙太郎は思わす店に入ってしまった。
白髪頭の50代の店主が、「ガラガラガラガ~」とシャッターをあけている最中だった。
「店は何時か開くんですか?」
「ああ、お湯が湧けば開店できますが」
あれ?お湯?スープは?
「なら10分で湧きますね?」
「はい」
「店のなかでまってても良いですか?」
「どうぞ」
兎に角汚く、カウンターしかないしけた小さなみせだ。
すわりの悪い回転丸椅子が5個だったかしら。
黄色の紙に無造作に汚い時がマジックで書かれた「準備中」の札が、
ドア窓に風に揺られながら汚らしく貼られている。
メニューは以下3つ。
・ビール
・マグロラーメン
・豚チャーシューメン
店主は「3つしかないです」と照れ笑いしながら注文をとった。
「チャーシューに豚という字をつけるか?ふつー」
何やら妙だ。
「すみません。生ビールください!なんかつまみあります?おつまみチャーシューとか」
「いやあ、ないです。チャーシューはあるけど味が付いてないんで、お勧めしません」
「・・・・」
「じゃ、マグロラーメンください」
いろんな想像をしてしまった。
生マグロがほりこまれ、スープは生臭い。
シーチキンが麺の上でてんこ盛りになり、スープはマヨネーズ味。
余ったマグロユッケの炒め物が麺の下にかくれているとか。
「うげげげげ~」
そんなところに、定年したらしいきたならしい老人がはいってきた。
その老人は、店主に「あれ、貼り替えて良い?」ときく。
店主はうなずく。
浮浪者のような老人はおもむろに、セロイハンテープでぶら下がる「準備中」の札を
「営業中」とマジックでかいている札にはりかえる。
ますます「マグロラーメン」がおぞましくなった。
老人は「豚チャーシューメン」と「ライス」を注文した。
店主は「ご飯は昨日の残りのですからまずいよ。お勧めしません」
「・・・・」老人は無言。
ますまず怪しくなった。
「味のついてないチャーシュがのっている?」
「まじっすか」
店内は禁煙喫煙のメッセージはなにもない。
店の汚しさと不気味な雰囲気で謙太郎はタバコなんかどうでもよくなった。
「マグロラーメン」様が登場した。
以外にも見た目は伊丹十三監督のタンポポという映画にでてくる超シンプルなラーメンだった。
レンゲでスープをひとくち。
「ごくん」
当然鶏ガラベース醤油だ。
「うまい!」
マグロは小さいソテーが二つさりげなくのっている。
たいした主張もせず、ひっそりと。
「なるほど、マグロはマグロ好きな爺たちをひきつけるたんなるプロパガンダなんだな」
ドンブリのスミには岩のりが少し恥ずかし気にのっている。
しかしその塩味がグッドだ。
そしてその陰に隠れてシナチク数匹泳いでいる。
麺は細麺だ。
スープがバツグンだった。
珍しくスープを飲み干す謙太郎であった。
この街にこんなシャッター通りにラーメン屋があったなんてしらなかった。
「550円」
会計のとき、無口な謙太郎は思わず
「美味しかったです。またきます」とつい、いってしまった。
あの店主の嬉しそうな「毎度あり」のあの歯の白さが素敵だった。
なんか嬉しいものだ。
「じ~ん」
うまければ、商品がよければ、客がよろこべば、注文は永久に続くはずだ。
それが商売やビジネスの基本のキだ。
ITだろうがマーケティングだろうが、ファンドだろうが同じだ。
「マグロラーメン」は永久に不滅だ。
さて、腹ごしらえした謙太郎は鉢巻を「きっ」と締め直し、
ゴーグルをして、チェーンソーのエンジンをかけた。
「ばばばば~~、ごぎゃぎゃぎゃが~~っ」
「わしは最後の職人だ!」と気合を入れた。