僕は戦争に行ったことはない。

しかし、戦場というものは、気を抜いている

暇などない世界だろう。


時に仲間たちと、酒を飲み、談笑する時間は

あっても、いつ何が起こるか、わからない。


戦場に出てしまえば、紙一重だ。

どこから、銃弾が襲ってくるか、わからない。

それは、間違えて発砲した仲間のもの

かもしれない。


地雷を踏んでしまうかもしれない。

出くわした敵に至近距離でやられるかもしれない。




戦場に居る人間は、好きで人を殺したいわけじゃない。

できれば、家族のいる世界へ帰りたい。

そのために、ワザと負傷兵になり、逃げるものもいる。



逃げれるものなら、逃げたい。

まともに眠れもしない日が続く。

要領を間違えれば、自分だけじゃなく、仲間も

巻き込む。



正直、ラクができるなら、本望だ。

しかし、ラクをして生きることが、正しいなど、

思ってもいない。


逃げてばかりだと、信頼と居場所を失うかもしれない。

後ろ指をさされて生きる存在になるかもしれない。


ラクする方法は、損する方法と同じ位あるだろう。

選ぶのは簡単だ。

でも、選べない。


「帰って、酒飲んで、遊びてぇよな。」


せめて、口にだけ出したい。

出来ないのを知ってるから。


この戦争で生きて帰らないといけない理由が、

この戦争で負けてはいけない自分が、

あるのを知っている。


支えなければならない存在がある。

戻ったら、したい夢がある。

待っててくれる人がいる。


それでも、こんな恐怖のいつ、くたばるか

わからない世界で、時折、本当にダメになるんじゃないかと、

弱音を吐きたくもなる。

逃げを選んで、格好悪い姿を仲間に見せてしまうこともある。


「あいつはダメだね。」

そう思われてても、この戦場で生きなければ、

生きて、この闇から、元の世界に帰らなければ、

ダメだと。


もう捨てられた駒同然なのだから。

同じように怯え、相手の攻撃の中、

少しの談笑をしてきた友たちが、


先を先を走っていく。


おいらは、ヘタレの兵士のまま。

この防御壁から、立ち上がることはできない。


ここで、嵐が去るのを待つか。

覚悟で走り抜けるか。

もう、怖い思いをしたくないと消えるか。

運悪く、手榴弾の餌食になるか。


理解などされない世界の中。

弱虫は、足手まといと疎まれる。

戦力にならないと、相手にされない。

頑張ってるヤツには、蔑まれる。


この戦場で「生きてる価値」はあるのか。

おいらはヘタレだよ。


それでも、何年、この戦場で生き延びてきた?

知らぬ前に、最前線に行ってる。


明日はあるのか。

そんな世界だよ。


痛みを分け合った同志は、いつの間にか、

先を走っていく。


知らぬ間に、この中でおいらは一人だ。

「こっちに来い。」と

手を引く者はおらず、ただただ、頭を抱え、

気付かれないように、逃げてるだけだ。


嵐が去るのを、待つだけで。


そのまま、知らぬ間にドボンなら、

それでもいいや。


アディオスだ。