今回からは、
精子提供者との性行為は不貞行為となるのか?
というテーマについて、
過去の裁判例を
数回に分けて
解説をしていきます
第1回である今回の記事では、
まず、
実際の裁判になった事案の概要を載せた上で、
裁判で争いのポイントとなった点について、
具体的に解説します
次回以降で、
具体的な裁判所の判断を、
解説していく予定です
事案の概要
✔️ 裁判例
東京地方裁判所令和元年10月8日判決
(LLI/DB 判例秘書登載)
✔️ 事案の概要
X(妻)とA(夫)は夫婦
Aは眼科医
XとAの間には3人の子どもがいる。
Y(不倫相手)とB(不倫相手の夫)は夫婦
Aは、Webサイト上で、とある団体を運営し
精子提供を受ける女性を募集していた。
Webサイト(以下「本件サイト」という。)では、以下の記載があった。
医師がサイトの主宰者であること
不妊治療病院と同一の医療機器を用意して高い安全性と信頼性を確保していること
精子提供者を東大卒、
難関国立医学部卒に限定したこと
感染症対策としてタイミング法(性行為)での提供は実施していないこと
営利目的ではなくボランティア団体であること
精子提供者は本サイト運営している難関国立大卒の医師であり、
数年前に結婚して子が数名いること
YとBは、不妊治療を受けていたが妊娠に至らなかった。
不倫相手Yは、本件サイトを閲覧し、
サイト上にあったメールアドレスに、
問い合わせメールを送った。
内容は夫の精子に不安要素があるため、
精子提供を受けることを考えているという内容。
その後Yは、Aに対して精子提供を依頼し、ホテルで、Aは、持参した器具を用いて、
Aの精子をYの膣内に注入した。
なお、上記のとおり、Aは眼科医であり生殖医療に携わった経験は一切なかった。
その後、Aは、Yに対して、
Yのような美しい方に精子提供をできて、
本当に嬉しく思っている、
というメールを送った。
さらにその後、AはYに対して、
Webサイト上には書いていないが、
性行為(「タイミング法」と呼称)による、
精子提供も可能であること、
性行為による方法の方が若干成功率が良いこと、
体外受精などよりも性行為による方法の方が、
パフォーマンスが良い等のメールを送った。
このAからのメールに対してYは、
確率の良い方法で精子提供を受けられるのは、
嬉しいなどと返信した。
そして、AとYは性行為による精子提供を
行うこととし、
その後、複数回、ホテルで性行為をした。
Aは、第一子を出産した。
(この時の推定排卵日がAとYが性行為をした日の1日前であった。)
その後、Yが第二子の妊娠を希望したため、AとYは、月1、2回の頻度で、
ホテルなどで性行為をした。
また、
Aは性行為による精子提供を推奨する一方で、
Yに対して体外受精の実施もアドバイスし、
自分の精子を容器に入れて、
Yに手渡すこともあった。
Yは、不妊治療クリニックで、
上記Aの精子を凍結してもらい、
これらの凍結保存した精子を用いて、
体外受精を複数回受けた。
体外受精の結果、
Yは第二子を妊娠し出産した。
後に、Yの第一子、第二子ともに、
Yの夫であるBとの血縁関係はないと判明した。
その後、AとYとの関係は悪化した。
Yは、Aに好意を寄せていたため、
Aから、性行為による提供ではなく、
体外受精による方法を提案したことや、
Aによる精子提供の予定がキャンセルになったことなどにショックを受け、
次第にAを恨むようになった。
Yは、Aに対して、
「Aに対する憎悪が拭い去れない」、
「私の尊厳を失墜させ、心身ともに甚大な被害をもたらせた」など、
Aを強い調子で非難するメールを送り、
Aの体外受精にかかった費用や、
不眠症の治療費の支払を求めるメールを送った。
さらに、時期を同じくして、
全く異なる第三者名で、Aに対して、
脅迫の内容のメールが届くようになった。
メールの内容は、
AとXの夫婦が新たに子どもをもうけないように執拗に要求し、
もし子どもをもうけた場合、
その子どもの命は保証しない、
というような内容だった。
また、Aの妻である、
Xやその子どもの容姿を誹謗中傷する内容のメールも届くようになった。
Aは、これらの脅迫メールについて、
警察に被害届を提出した。
警察の捜査の結果、
Yが脅迫の被疑事実で逮捕され、
その後の取り調べで、
Yが上記の第三者名のメールを、
Aに対して送ったことを自白した。
なお、上記以外にも、
Yは、インターネット上でAを誹謗中傷したとして名誉毀損罪で逮捕勾留されている。
本件は、精子提供者Aの妻であるXが、
Yに対して、
Aとの不貞行為に基づく慰謝料請求
上記のAとXの子どもの命は保証しないなどというメールを送信した脅迫行為による慰謝料請求
Xの容姿を誹謗中傷した侮辱行為による慰謝料請求
以上の慰謝料等を求めて起こした裁判である。
※当事者のアルファベットは実際のイニシャルなどとは全く無関係に記載しています。
今回の裁判のキーワード
精子提供者との性行為は不貞行為になるのか
裁判のポイント解説
1️⃣ 不貞行為の成否
不貞行為とは
婚姻関係にある者が配偶者以外の第三者と性的関係を持つこと
性的関係とは、肉体関係やそれに準じる行為を指す
不貞行為が違法行為とされる理由
夫婦の婚姻生活の平穏を害する行為だから
既婚者であることについて故意または過失が必要
不貞相手が責任を追求されるためには、
性行為を行なった相手が既婚者であることを、
知っていた(「故意」)か、
もしくは、
知らなかったとしても、
注意すれば知ることができた状況にあった(「過失」)、
ということが必要
すなわち
1 肉体関係やそれに準じる行為が無い場合
違法ではない
2 夫婦生活の平穏を害することは無い場合
違法ではない
3 不倫相手が既婚者であるとことについて故意過失が無い場合
賠償責任は発生しない
今回の裁判では、
不倫相手として訴えられたYは、
上記の2と3の点で争いました
特に、2について、
Yは、
精子提供者のAと性行為をしていたのは、
あくまでも妊娠目的であり、
生殖医療の一環(またはこれに準ずるもの)
としての性行為をしていたから、
夫婦生活の平穏を害することはない、
と主張しました
このYの主張に対する、
裁判所の判断は、
次回以降の記事で解説します
2️⃣ 第三者名での脅迫行為等がYによるものか否か
上記の事案の概要で記載したとおり、
精子提供者Aのもとに、
Aとその妻であるXが新しい子どもをもうけた場合は、
その子どもの命は保証しない、
というような内容のメールが届きました
また、Aの妻であるXとその子どもの容姿を、
誹謗中傷する複数のメールが、
Aに送信されました
これらのメールについて、
警察の捜査の結果、
Yは、自分が送ったものだと自白をしました
しかし、
今回の裁判でYは、
上記メールはYが送信したものではない
と主張し、
上記の自白は、
警察の誘導と、
自宅に帰りたい一心で行った、
虚偽自白
だった、と主張しました
このYの主張に対する、
裁判所の判断は、
次回以降の記事で解説します
3️⃣ 不貞行為の慰謝料や脅迫行為等の慰謝料金額
今回の裁判で、
Xは、不倫相手Yに対して、
精子提供者である夫Aとの不倫に関する慰謝料と、
Xに対する脅迫行為に関する慰謝料、
そして、
Xの容姿を誹謗中傷したことに対する慰謝料、
以上の3つの慰謝料などを請求しました
これらの慰謝料の金額について、
裁判所は、いくらが妥当と判断したのか、
次回以降の記事で解説します
まとめ
不貞行為とは配偶者以外の第三者と性的関係を持つことをいい、
夫婦の婚姻生活の平穏を害する行為であることから、
違法な行為として慰謝料請求の対象となる
なお、今回紹介している裁判例は、
上記の通り、あくまでも裁判例の1つです。
実際の結論は個別のケースで異なる可能性があります。
実際の個別ケースについてお困りのことがあれば、
一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。
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全てのケースに必ず当てはまるものではありません。
ケースごとに色々な事情があり、
最終的に判断するのは裁判所であることはご留意ください。
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