秋晴れに戻ったかと思うくらいの暖かさの休日。
夕方に食糧を買おうとふらりと外へ出た。
ふと足を止めたのは、地元では有名なパン屋さんの前。
少しお高めだが、たまにはいいかと思い入店。
精巧な四角に形取られた食パンが光って見えた。
思わず手に取りレジへ。
並んでいたら前のマダムがふと店員を止める。
「セロハンが緩くなっているわと教えて差し上げようと思って。私ではないのよ。」
どうやらセロハンに包まれていたパンのセロハンがたわんでいたらしい。
私は思わずマダムを見た。
白髪をおしゃれにまとめ、襟付きシャツにセーター、スカーフをこれまたおしゃれに巻いていた。
いまどき日常的に「教えて差し上げようと思って」と話し言葉で使う方がいらっしゃるのかと衝撃を受けた。と、同時に、マダムの生きてきた人生に興味を持った。
その後、レジでも品のある言葉遣いで支払い方法を聞いていたが、所作一つ一つが丁寧で美しい。
マダムと同じパン屋さんで購入した自分もなぜか誇らしくなった。
私も教えて差し上げようと思ってとさらりと言える人間になりたい。