物の価値と値段 | アイアムグッドガールのブログ
毎日拝読している着物関係の伝統工芸士さんがよく嘆かれている問題、生産者や販売店、問屋の倒産や廃業。大体次の3パターンだろうか。
①高齢化による後継者問題が解決しなかったパターン。
②せっかく作った物が売れなくなって作り続けても利益が見込めないので辞めてしまうパターン。
③売れはするけれども問屋や販売店の提示価格が低すぎて採算が合わなくなってしまうパターン。
どれもこれも、着物人口が今よりググッと増加して、たくさんの人がそれぞれお好きな産地のお好きな作家の着物や反物を真っ当な値段で買っていけば解決する話ではある。

やっと本題。
着物の真っ当な値段とは?
物は高価だ

高い、何に比べて。洋服の?ユニクロ?デザイナーブランドのスーツなら?
着物は振袖や結婚式に着る様な正装用だけではない。普段着というジャンルがあるのはあまりにも知られていない。浴衣を始め木綿やウール、正絹でも紬の類いは日常着である。
紬については大島紬という目玉を吹っ飛ばす様な高額品もあるのだが、フォーマルには使わないという謎めいたルールがある。非常に分かりやすいブログがあるので検索してみて頂きたい。例えば上田紬のあの方とか。

ともかく、着物というものはやはり新品は高価だ。日常着でも本来はオーダーメイドであり、素材と加工代で軽く5万円は超えてくる。例えば仕立てる前の反物が3万なら仕立て代が2〜3万、季節や素材により裏地をつけるならさらに1〜2万上乗せ。直線で構成される四角い布を自分の体に沿わせて巻き付けるので寸法が合っていなければあちこちが具合が悪いのだ。和服が凄いのはサイズが合わなくても着方の工夫でなんとかなるという都市伝説。それを言う時は大概は詭弁で、綺麗に着ようと思えば肩から手首の長さ(洋服なら袖丈)で言えばその許容範囲はたった2センチ程である。
私が足らない頭で想像するに、かつての日本人の衣服の消費サイクルはほとんど一生単位。壊れ破れても繕い当て布をして使い続けた。流行り廃り、趣味の変化で買い替えるなんて事はごく一部の富裕層にのみ許される贅沢。
それならば1着あたりの値段が原料と製品それぞれの職人の手間賃、流通コスト、販売手数料がきちんと足されたそれなりの値段になったとしても払うに足る妥当な値段だと認識されていたかもしれない。
一生着るつもりなら普段着が今で言う何万円でもおかしくなかったという訳だ。
現代の、特に伝統工芸的な着物の不幸はライバルがファストファッションだという点。消費のスピードが違う物と同じ土俵に入る、べきでもないのだろうが、土俵の近くには居ておかないと客席からは見えないのだから。
100年は着ることが可能な正絹の着物と、10年着られればあとはリサイクルするほどでもない吊るしのスーツ。少なくとも親子2世代は着られる木綿やウールの普段着物と来シーズンも着られたらラッキーくらいのTシャツ。払う金額が10倍だとしても、本当は充分妥当な筈なのだ。
ちなみにこれもあまり知られてない事実、絹布というものは非常に丈夫だ。箪笥に仕舞い込んだままでも虫も食わないし、湿気でカビたとしてもちゃんと洗えばリカバー可能。織の種類によっては摩擦や引っ張りにも強く、石川県名産牛首紬なんかは釘も抜けるほどだと別名釘抜紬と呼ばれる。泥染大島紬を実際に触った感触を言えばシルク特有の滑らかさとポリエステルやナイロンの様な堅牢さがある。身に付ければ一般的な化繊より通気性も保温性も優れて、静電気も起きにくい。お蚕さんは本当に尊い。

ここまて長々と主張しつつ、着物購買人口が全ての生産者や販売ルートを賄えるほど増える事は恐らく、、。
新作が売れない理由の一端であるリサイクル市場。まだ袖も通して貰えていない綺麗なままの未使用品が大量にリサイクル市場に眠っている。アンティークと呼ぶほどこだわりの逸品でなくとも、どなたかがどんな気持ちで仕立ててそのまま放り出したものか、気になるお宝があちらこちらで私を呼んでいる。

こちらはインターネットオークションで落札した6000円の正絹の付け下げ。背の高い方が足りない着尺で無理に仕立てたか、未使用のお下がりをもらって仕立て直したか、帯に隠れる部分に継ぎ足しがある。唐子があちこちに浮かんだ面白い着物で、もしかしたら柄もあとから書き足したのかもしれない。あれこれ細工したものの結局しつけも付けたまま着ることは無かった残念なこの子を私は喜んで迎え入れた。総柄ではないので着物の格としては少しフォーマル寄りではあるが、唐子が漫画チックなので格の高いパーティーというよりふらっと美術館行くとかホテルでもツレとただ茶〜しばくだけなんて時なら良いんじゃなかろうか。いや、実は家の鴨居にぶら下げて眺めるだけっていうのが最高の楽しみ方である。たまに唐子に話しかけてみたり、したりしなかったり、、。変わりモノではあるが正絹らしい手触りとトロミも良い。