"私"は、香澄を我が物とした。私は安芸の言葉を囁き、どこか恥じらいながら呻く彼女を組みしいた。枕で口元を隠す彼女が、たまらなく愛おしかった。だからあまりにも簡単な行為なのだ。安芸のことを好いている彼女が、要求を断ることができないことを免罪符にできるからー。
いや、今となっては呪符でしないのだが。
"私"は安芸として、毎日香澄を求めた。それが禁忌だとわかっていても、香澄が要求を断ることはないからだ。
それから2ヶ月が過ぎたー。
私はもう全てがどうでも良かった。もはやまともに安芸を演じることも辞めた。いや、不可能だった。行為の時だけ、演じれば良いのだから。
香澄はそんな私を、いや、"僕"を心配して大学病院へ連れていった。その行為が私の手のひらの上だということも知らずにー。
私の過去を派手に脚色することで香澄の同情を引いた。幼い頃、双子の姉が "死産した" だけのことを派手に飾った。そう、脊髄共有した姉を犠牲にしたとー。それは、父である小名教授の口添えもあり、拍子抜けするほど容易かったが。
それから香澄と私は大学の研究室で寝泊まりする生活を始めた。昼は壊れた安芸を、夜は饒舌で小悪魔な灯里を演じて。
ある時、香澄が私を院外へと連れ出した。そこで私は香澄の呪いを、いや、呪わざれざるを得ない自分の業を知ったのだ。
「兄さん、私、妊娠してるの。」
続くー。
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