†漆黒の腐敗臭~ブラックアロマブラック~in the dark† -2ページ目

†漆黒の腐敗臭~ブラックアロマブラック~in the dark†

神様って思わず僕は、叫んでいた・・・

その12

"私"は、香澄を我が物とした。私は安芸の言葉を囁き、どこか恥じらいながら呻く彼女を組みしいた。枕で口元を隠す彼女が、たまらなく愛おしかった。だからあまりにも簡単な行為なのだ。安芸のことを好いている彼女が、要求を断ることができないことを免罪符にできるからー。
いや、今となっては呪符でしないのだが。

"私"は安芸として、毎日香澄を求めた。それが禁忌だとわかっていても、香澄が要求を断ることはないからだ。

それから2ヶ月が過ぎたー。
私はもう全てがどうでも良かった。もはやまともに安芸を演じることも辞めた。いや、不可能だった。行為の時だけ、演じれば良いのだから。

香澄はそんな私を、いや、"僕"を心配して大学病院へ連れていった。その行為が私の手のひらの上だということも知らずにー。

私の過去を派手に脚色することで香澄の同情を引いた。幼い頃、双子の姉が "死産した" だけのことを派手に飾った。そう、脊髄共有した姉を犠牲にしたとー。それは、父である小名教授の口添えもあり、拍子抜けするほど容易かったが。
それから香澄と私は大学の研究室で寝泊まりする生活を始めた。昼は壊れた安芸を、夜は饒舌で小悪魔な灯里を演じて。

ある時、香澄が私を院外へと連れ出した。そこで私は香澄の呪いを、いや、呪わざれざるを得ない自分の業を知ったのだ。
「兄さん、私、妊娠してるの。」

続くー。




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愛しても、愛しても、近づくほど見えない…。
遠くからならば、その全体像を視界におさめることは簡単だが、近づきすぎると輪郭すべてを収めることができない。だって、安芸も灯里も、同じように香澄を想っていたから。それだけは誓って嘘ではない。



偽りの姉妹愛。仮初めの兄妹愛。今思えば、どちらも雲の切れ間に覗く月のように不確かさを孕んでいた。地球から見える月の模様は一様であるらしい。だけど天候次第では、満ち欠けの見せ方を変えることなど造作もないのだ。


それは香澄から私に対しても同様だということに、まだ彼女は気付いていない―。



安芸が告白された時は、戸惑いしか感じなかった。もちろん慕われることの嬉しさはあったけれども…。だけどそれ以上に、私が灯里の時に香澄から垣間見える、恋する少女の顔に惹かれてしまったのだ。


「ねえ灯里?私が兄さんを想っているのに気付いたのは、いつからだと思う?」ベッドに座って枕を抱きしめながら香澄は言った。唐突な質問に私は返答できなかった。だってその答えの先にある解は、私の嫉妬心をかき立てるだけだから。


そう。私は安芸に嫉妬していたのだ―。気付いたらもう、私は独占欲に支配されていて…。香澄が私を呼ぶ声は、悲しみに変わるだけで。この気持ちが”恋”だっていう疑念は、安芸のことを話す香澄を見て確信にかわった。


これが私の”初恋”なのだ。


続く・・・




「父さん、ちょっとだけ待ってもらえる?まだ、色々考えたいことがあるし…」

最善とはいかないまでも、解決する方法としては、これしかないのかもしれない。授業も終わり、静けさを増した医学部の時計塔に登って、山の稜線にしずむ夕陽を眺めていた。


沈む夕陽は、自信なさげに揺れて見え、まるで湖面に映った月を想起させた。水月は、水面に振動を与えると容易にその姿形を変化させる。
まるで私、いや安芸と香澄のような関係かもしれない…。 数年来つき続けた優しい嘘は、私たちを真綿で締め付けるのだった。


家に帰ると香澄が夕食の準備をしていた。


「おかえりなさい、兄さん。今日は遅かったのね」


香澄は包丁でネギを刻みながら挨拶した。 昨日のことが無かったことの様に、香澄はあまりにもいつも通りだった。 食事を終え寝る準備を済ませた香澄が居間のソファでテレビを見ている。


“私”は、香澄に語り掛けた。「初めまして。香澄」


――結局父の案を受け入れて、その日から私は香澄の前でも“私” と“僕”を演じ分けることになった。役割を演じることには慣れている。生まれつきの原因でコワれている私を、少しだけ異なるコワれ方に見せるだけだ。そう、私なら大丈夫、と自分に言い聞かせながら過ごしてきた。



それから3週間が過ぎた。ワタシと香澄の逢瀬は夜だけなのだ。「香澄? 運命の歯車にのせられた子羊たちは、鳴くことが許されないのよ?」まやかしのコトバを吐くたび、罪悪感という名の氷は、エスプレッソに入れる角砂糖のように私の心を酔わせるのだ。まるで口が踊りだすかのように、私はワタシを演じた。
夜は灯里、昼は安芸。


さすがに眠いと思ったので、昼間は父の研究室で寝た。昼夜は逆転、人格は反転してたけれども、問題はなかった。寧ろ私は、そんな状況を楽しんでいたのかもしれない。だって香澄のまえで、本来のワタシに戻れたのだから。



そう、あの子が安芸のことを話し出す前までは…。


続く・・・