†漆黒の腐敗臭~ブラックアロマブラック~in the dark†

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神様って思わず僕は、叫んでいた・・・

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その15

香澄から全てを聞いた僕は、小名教授のもとへと向かった。
医局の教授室で、独り観葉植物に水をあげる父親の姿があった。観葉植物には珍しい金木犀の苗木だったが。その姿は記憶の中の父親よりも、ずいぶん年老いて見えた。

「父さん、思い出したよ。3年前の全てをー。」

「そうか。運命の歯車の上で踊る子羊たちは、鳴くことが許されたのかな? 安芸。結局、感覚なんて神経細胞の発火でしかなければ、感情はいつでも揺蕩うのだろうな。君の目はあの娘とおんなじだよ…。」
「灯里はも香澄も、最期はキミのことを想って逝った。それが愛か憎悪かは別としてだが。こんなにも実体の無い君なのにねー。」

実体がない…?なんとなく意味はわかる。だがそれよりも、"灯里と香澄が逝った"とはどういうことだ。完全に冷えきった汗を拭うこともできない。

「父さん、僕は誰のかはとりあえずどうでもいい。灯里についても何と無くはわかる。…だけど、香澄は、妹は何者なんだ?」
極めて冷静を撤しながら、喉の奥からその言葉をやっと吐き出した。

「安芸。今が何年なのかわかるか?」

「1999年。ノストラダムスの予言で、世界が終わるハズの年だね。そして、渋谷の事故から2ヶ月の10月。」

父は、何事もなかったかのように、世界に興味がない目線で、金木犀の苗木を見つめてつぶやいた。

「2013年。10月17日。そして、香澄は13年前の10月に亡くなった。」

世界が暗転したー。
また、視界が2重にみえ、空気が凍結する。

続く…






iPhoneからの投稿




刹那、マネキンは落下を開始する。刹那、ソレは自由落下を優に超える初速で落下を開始した。なぜなら、マネキンの首に手を絡ませながら、屋上の柵を蹴ったからだ。y軸方向の軌跡とx軸が交差するゼロ地点へ至る瞬間、すなわち、4秒後の空間を観測した。いや、それではたどり着けない。z方向を認識しなければならない。





『だから僕は手を、伸ばしたー。』





伸ばそうとする枯れ枝は腕だった。腕となった。いや、始めから腕だった。魂と神経が連携したのだ。右手は何故か動かない。だから左手で落下する少女を包み込み、僕が下敷きとなることにした。落ちる最中、妹の、香澄の視線と交差した気がする。重量に身を任せながら僕たちは落下した。躰は既に僕だった。永劫とも思える主観時間を旅し、僕らはゼロ地点へとたどり着いた。―瞬間、時計塔の針の動きが停止した。最後に見た映像は、金木犀の花が真っ白に散る瞬間だった。







その13






 




香澄の言葉を理解できなかった。「私は、産みたいと思うんだけど。大好きな兄さんの赤ちゃんだから、大切にしたいの。ねえ、兄さんもそれでいい…?」私は何かを言った気がする。だけど、脳が拒絶する。胸の内にあるのは嫉妬―。それを中心に渦巻くのは憎悪。安芸への激しい憎悪。目の前が真っ暗にった。そうか。なら全てを終わりにしてしまえばいい・・・。私は、香澄の首に手を掛けた。










ただ、暗闇を歩いていたー。上も下も分からない。接地できない。そう、重力がない。
四肢から生えるのは枯れ枝だけ。そこに生えるのは、頼りない枯葉だけ。植物が二酸化炭素を酸素に変えるのは、昼だけである。夜にするのは呼吸だけ。それは動物とかわりがないのだ。生産を放棄した自分は、消費に奔るだけだ。ゆえに、朽ちる四肢を再生することはもうない。だって永劫の暗闇にいるだけなのだからー。


締めた手に力をかけるー。勝手に動く手を止めることはできない。
「兄さん…。なんで。」
「香澄は私だけのものだから…。さよなら香澄、そしてもう一人の香澄。」
僕は妹の頚椎に力をこめる。めり込んだ感覚が右手に深く深くからみつく。屋上の手摺に押し付けられた妹のカラダは力なくただれ落ち、マネキンのようだった。ついえようとする命は山の稜線へと沈む夕陽のようで、耳に響く歯ぎしりの音は連なる命の断末魔だった。

刹那、マネキンは落下を開始する。



続く…。