陈思宏氏の『鬼地方(亡霊の地)』を読みました。

 

 

太台本屋 tai-tai booksさんの書評を読んだのがきっかけです。

 

タイトルに「鬼」がつきますが、ホラー作品ではありません。

2020台灣文學金典獎の「年度百萬大獎」、第44回金鼎獎の「文學圖書獎」、第29回台北国際ブックフェア書展大獎の「小説獎」入選という、華々しいタイトルを持つベストセラーです。

ある台湾の地方に住む家族、それぞれの人生について語られるきわめて範囲の狭い、でもきわめて濃厚な作品。

 

 

 あらすじ

 

台湾の「永靖」に住む陳一家。

両親と五女二男の子供たち。

主人公の末っ子、天宏はベルリン暮らし。

同性愛の恋人を殺害した罪で投獄されていましたが、出所後、中元節に故郷へ戻ってきます。

話はそこから始まり、家族、近隣の人々、それぞれの物語が章ごとに語られていきます。

それぞれが持つ秘密、それらが章を追うごとにあきらかになり、最後は茫然とするような結末に。

 

 

 構成が面白い

 

各章で、入れ替わり立ち代わり語る人が変わるので、読んでいて飽きません。

しかも、その語りのどこかにチラリと「?」というようなカケラが出てくるんです。

例えば、「死んだ●●」(え?あの人死ぬの?)、「白鳥のお陰で自死を逃れたのだ」(え?白鳥とは?)、「母親が殺した」(どういうこと??)みたいな。

後になって、それらの「?」がきっちりと伏線回収されるので、すごくおさまりがよくて気持ちが良かったです。

 

章を追うごとに、「一体何があったのか、そのきっかけはなんだったのか」という事実が薄皮を剥ぐように明らかにされていきます。

それがミステリー作品のような面白さで止められなくなっちゃう。

ドラマにしやすそうなので、ぜひNetflixあたりでお願いしたい!

 

 

 問題山積み、不幸も山積み

 

小説の中に、たくさんの問題が出てきます。

 

・封建社会の家父長制度(女性蔑視)

・セクハラ問題

・同性愛への偏見

・思想・言論統制(白色テロ)

・外国人差別

・ネット炎上問題

 

事細かに、それらの物語が語られて、あまりの不幸さにどんよりとした気持ちに。

祖母〜両親〜兄弟姉妹7人、隣家の兄弟、なじみの書店員、全員が、全員ですよ?なんらかの不幸に巻き込まれ、全員すさまじく不幸なんですよね。

唯一次女だけが、そこまで不幸ではないかな?という感じ。とはいえ大変な状況。

ここまで不幸だと、悪霊に一族郎党憑りつかれてるんじゃないかってレベルですよ!チーン

 

 

 感想

 

読んだ後に、「もしかして、あれってこうじゃない?」っていう部分がいくつかあり、読んだ人たちと語り合いたくなるような小説でした。

この小説の読書会(参加された方のnote、主催者のインスタ)も開催されたようで、早く知っていれば参加したのに!と口惜しかったです(笑)

 

文章の、色々なものに対する描写が恐ろしく細かくて、読みながら常に映像が鮮明に目の前に展開されているような気分になりました。

自然描写の細やかさ、下卑た人間の仕草や行動の描写、心象風景の繊細さ、たっぷり出てくる食べ物の描写‥絵のような文章だなあと。

 

終始一貫不幸な内容なのに、なぜか「そんなことに負けない」という強さを感じるのは、やはり故郷「永靖」という土地への愛着、色々あったとはいえ家族同士の愛情がしっかりとした土台になっているからなのでしょう。

 

第三部のタイトル「别哭了」

恋人が死ぬ間際に言う「别哭了」、殺害した恋人の母親が主人公に言いたかった「别哭了」、母親が主人公に言う「别哭了」。

そして、中元節で父親の眠る果樹園で祈る姉の言葉「爸,天宏回來看你了。你要保佑他,平安順遂。」、主人公天宏の言葉「爸,我回來了。你要保佑大姊、二姊、三姊、四姊。」

・・・家族愛。

こっちが泣いちゃう。

 

 

 その他

 

小説内に出てくる楊桃園。その実で作るスープ。何だろうと思ったらスターフルーツでした。

どんな味がするんだろう?


天宏が帰ってきた時に長姉が作る豬腳麵線。おめでたい時やうるう年の時などに作るみたい。

こってり煮た豚足入りの素麺。食べてみたい。

 

 

兄弟たちが使っていた世界地圖書桌。

天宏は故郷を出ていく時に、適当に指さした国へ行こうと決め、指した場所がベルリンだったと。

この机、今は貴重なレトロ家具みたいです!

 

 

 

刊行記念の動画がありました。(【2023台湾カルチャーミーティング】第二弾『亡霊の地 GHOST TOWN』(早川書房)刊行記念 著者・陳思宏氏×対談者・三須祐介氏トーク)

 

 

 

 


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