陳耀昌『傀儡花』を読みました。
この本を読もうと思ったのは、原書会で状元さんが紹介されたのを聴いたのがきっかけです。
台湾の大河ドラマとも言える壮大な話!という状元さんの熱量に影響され、その原書会が終わってからすぐに中文版、日本語版を買いました。
むせかえるような自然の濃厚な色彩と先住民たちの息吹、そしてその地に住む様々な民族の営みを感じさせられる良書でした!
あらすじ
きっかけは1867年、日本で言うと江戸幕府終了の年に、アメリカ船ローバー号が難破したこと。
台湾最南端の海岸へ上陸するも、乗船者ほぼ全員が先住民族によって殺害されてしまいます。
その後、清朝軍&アメリカ軍は先住民族討伐へ向かいますが、間に立った主人公姉弟の活躍もあり、最終的には戦闘は行われず、平和条約「南岬之盟」をもって和解します。
これは、台湾先住民族と外国との間に結ばれた最初の国際条約となります。
〇〇人、〇〇族などで大混乱!!
舞台は台湾最南部なのですが、驚くほど多彩な〇〇人が出てきて最初は大混乱。
福佬人 ・・・ 大陸福建省から台湾に移住した人たち。福佬語。
客家人 ・・・ 大陸広東省、福建省から移住した人たち。客家語。
土生仔 ・・・ 福佬人と原住民族の混血。
平埔族 ・・・ 台湾の平地にすむ民族。清朝以前から暮らしている。
高山族 ・・・ 台湾の山地に住む民族。生番。
斯卡羅族 ・・・↑高山族(生番)に住むたくさんの部族たちの総称。
大股頭(族長)卓杞篤が率いる十八部族。
主人公の姉弟は、生番と客家とのハーフ。父親が客家人の行商人だったことから多言語を操ります。
そのおかげで、姉は西洋人医師の弟子になり、通訳として活躍。
弟は、母方の生番の族長の養子として活躍、という正反対の立場に。
民族間で、福佬人>客家人>土生仔>生番のようなざっくりとした優劣もありますが、なんやかんやとうまくすみ分けています。
ローバー号事件が起こるまでは…。
感想〜止められない時の流れ
この本での台湾の歴史もそうだし、日本もどこの国でも時はどんどん過ぎて、物事は次々と変わっていくという、当たり前のことに切なさと、根拠のない希望みたいなものを感じました。
清国からは「化外の地」と言われていた土地で、多様な民族が祖先から続く独自の文化や慣習をもって生活を営んでいたのに、異国からの干渉が入り変わらざるを得なくなっていきます。
「文明開化」と言われても、それは外部から来た側の言葉であり内部からみたら侵略に他ならない。
とはいえ、国際社会でのルールに従わないと取り残されるだけでなく、強国によって統治されてしまいます。
実際、オランダ、清国、日本、そして今は中国・・次々と統治者と称するものによって掻きまわされている台湾。
ラストで文杰が、日本政府から恩賞として受け取った佩刀や勲章、御賜品を前にはたと気がつきます。
確かに、今は衣食住は満ち足りるとはいえ、
將完全喪失自我,喪失靈魂,喪失祖先所傳承的一切。那活著有什麼意義?
と。
生きる意味は表面的な物品の充足だけではない。
物事は変わっても、魂の部分は変わらない。
そう、それが大事。
目に映るものは変わっていっても、そこに立つ自分の核の部分をしっかりと自信をもって保ち続けること。
などと、思ったのでした。
ちなみに、もう1人の主人公、蝶妹は、西洋人医師の弟子として医療と英語を覚え、後に土生仔と結婚して町医者として生きていきます。
彼女も、自分自身の道を確立するまでは波乱万丈な人生でしたが、最終的に幸せな姿が見られて良かったです。
この姉弟の生きる事のひたむきさ、未来に希望を持つ強さ、そしてアメリカ軍と先住民族との仲介に走る姿。
全力で応援してしまいました。
そして、早くに亡くなった彼らの両親の先見の明のある教育方針の的確さよ!
おまけ〜アメリカ領事 チャールズ・ルジャンドルについて
斯卡羅族の卓杞篤と「南岬之盟」を結んだアメリカ領事。
私は大嫌いなんですが(ずっと心の中で「クソ💩ジャンドル」と呼んでいた)、この人と日本人との間の子供が、なんと十五代目市村羽左衛門(うざえもん)だとか。そして孫に、本の尾声に登場する声楽家の関屋敏子さんが!
ちょっとびっくりしました。
市村羽左衛門氏。麗しきお姿ですね・・
この小説は、『斯卡羅 SEQALU』というタイトルでドラマ化もされています。
ちらちら見ていますが、あらゆる言語が使用されているので字幕を追うのが大変💦
これから少しずつ観ていこうと思います。