以前に、有料老人ホームで働いていた時期があります
有料ホームなので、お金にゆとりのあるご老人方がお住まいでした
その中で、ある奥様が印象に残っています。
その奥様はご主人と夫婦で入居されていました。
ご主人は恰幅がよく、悠然とされた雰囲気です
一方、奥様は、大きな宝石がついた指輪やイヤリングをお召しで、誰に対してもニコニコされ、お話が大好き
目鼻立ちがくっきりしていて、若い頃はさぞかし美人だったのだろうなと思われました
まさにお金持ちのご夫婦というお二人でした
しかし、どちらも認知症があり、会話は基本的に支離滅裂です
行く度に、
「まあ。かわいらしいどちらからいらっしゃったの」
と、まるで、初めましてのように出迎えられます
そして、その後には必ず、
「ほら〜、うち、子どもいないから〜」
と、こちらが聞いてもないのに、続きます
他の会話をしてても、突然、
「ほら、うち、子どもいないから〜」
と。
どうやら奥様の口癖のようです
ご夫婦、お歳は大体、90歳台……
今はハラスメントが注目されているので
子どもがいない夫婦に、子どもがいるのか?とか、いつ生むのか?のような発言はしないことが、マナーになっていると思います
しかし、ご夫婦が生きてこられた時代は
『三年子なしはされ』の時代です
子どものことについて、散々、言われてきただろうと想像できます
奥様の口癖は、子どもがいない事に触れられる前に、予防線を張っているのだろうか……と感じていました
若い人を見ると、いつも、嬉しそうな奥様
「ほら〜、うち子どもいないから〜」
と奥様が明るい声で言っているのを聞くと、
お子さんが欲しかったのではなかろうか……と胸がきゅっと苦しくなります
生殖医療が、進歩した現代……
まだまだ、成功率が高いとは言えませんが、
不妊治療、卵子提供、代理母出産
という選択肢がある分、恵まれているのかもしれません……
未来は、子どもが欲しいと願う人が、皆、お母さんになれる世界であって欲しいです…