2025年12月19日  広島上野学園ホール

 

シューベルト :創作主題による8つの変奏曲 変イ長調 D 813 Op.35 
シューマン :アンダンテと変奏曲 変ロ長調 Op.46
ラヴェル:ラ・ヴァルス
(休憩)
ブゾーニ:モーツァルトの「ピアノ協奏曲第19番」の終曲による協奏的小二重奏曲
ラフマニノフ:交響的舞曲シューベルト :創作主題による8つの変奏曲 変イ長調 D 813 Op.35 
 

今話題の藤田真央。一回は聴いてみないとと思い出かけてきました。会場は広島市中区にある上野学園ホール。建築年数は古いものの、クラシックのコンサート会場として音響がいいと評判です。

 

会場に到着するとすごい人の列。練習時間が押して客の入場時間が遅くなってしまったようです。1階席はほぼ満席の状態。2階席は左右のA席に空席が目立っていました。観客のほぼ8割がいわゆる「おばさん」と呼ばれる中高年の女性です。それが、特に熱心なクラッシックファンでもなさそうな雰囲気。広島でN響や著名なクラッシック演奏家のコンサートには、結構中高年の男性観客が多いのですが、今回男性はごくわずか。う~ん、どう理解していいのでしょうか。若い男性歌手のおっかけが集まっているような雰囲気とはまた違うような気がするのですけど・・・

 

コンサートの冒頭からアンコールまで、すべて二人のピアノ二重奏です。真央がソロで弾く曲は全くありません。真央目当てに入場している観客のほとんどだと思います。観客の多くは彼の独奏が聴きたいのですが、これに全く答える気はないようです。

 

今回のメインは何といってもラヴェルのラ・ヴァルス。原曲は管弦楽曲ながら、彼は管弦楽版のみならず、連弾、2台ピアノ用と独奏ピアノ用の版も書いています。今回は2台ピアノ用の楽譜が使用された。私はオケと独奏ピアノ用の両方を聴いているが、2台ピアノ用は初めて。オケは細かなパッセージにオケ全体がついていけないようで、小さなフラストレーションがたまります。 独奏用は萩原麻未などがよくコンサートでプログラム入れており、広島では聞く機会は比較的多いと思います。しかし、2台ピアノ用は広島で初めて聴きました。

 

良かったと思います。明らかに1台用より音の厚み、華やかさが違います。1台用で物足らなかった点が2台用ではすべて解決されているような、そんな印象がします。オケの華やかさと、ピアノ独奏の軽快感。いいとこどりのような曲。ただ、1台用の方が演奏者がそのすべてをコントロールでき、観客としても没入感が高いのではないでしょうか。どちらがいいとは結論できないけど、今回の2台のピアノというコンサートツアーの趣旨としては、ジャストの選曲ではなかったかと思います。

 

今回のコンサート、全体を通じて緻密な音作りがされており、欠点らしい欠点がありません。興行的には藤田真央の独奏を入れた方がよかったとは思うけど、2台のピアノというコンセプトにあくまで拘った姿勢は高く評価できます。それでも、藤田真央の実力の片りんは明確に表れていました。彼の演奏の力強さ、奥行きの広さが音色の違いとなって引き立ちます。キルルゲルシュタインの優等生的な弾き方とは一味違う、分裂的なダイナミックさを感じさせます。彼のソロを聴いてみたいという衝動がますます強くなりました。

 

きわめて満足度の高い演奏会でした。単なる藤田真央ブームにのったチャラい?演奏会にしたくないという主催者側の趣旨が伝わってきて、潔い演奏会だったと思います。