蒼龍 | DAILY LIFE

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なんてことない日常のおぼえがき

蒼龍/山本一力


さて、何読もうかなってことで

山本氏の本を再び。

前回「あかね雲」でもそう思ったけれど

氏の作品を読むに当って

まず、断定過去調の

プロジェクトX風文章を気に入るかどうか

が重要な気がします。

ぶつ切りの文章で

「~だった。~だった。」という感じ。


今回、正直最初は

あんまり気持ちよくなかった。

やっぱりするりと流れていく文章のほうが

好きなんだろうなぁ。

それでも読んでいくうちになれるし

そういうものだ、

と思えばさほど苦にはなりません。


さてさてこの作品は5遍の短編集。

1話目「のぼりうなぎ」は

指物職人が突然

大店の主(元板前)に請われて

手代になるというお話。

ちょっとムリ筋だけれど

なかなかいい話でした。

ただ、結末は読者に委ねられるので

ちょっと読後感は物足りないかな。


第2話「節分かれ」は

酒問屋の大旦那が

息子の反対を制して

取引先に仁義を通し

そして新たな商売に取り組む話。

なかなかいい話で

大旦那の亡き妻への愛情も

見事のひとこと。


第3話「菜の花かんざし」は

代々、剣術指南を務める家が

弟の不始末により

危機に陥るお話。

夫婦のお互いを思いやる

愛情が美しいけれど

前編に亘って溢れる

暗い感じが気分を沈ませる感じでした。


第4話「長い串」は

土佐藩江戸詰めの武士と

掛川藩江戸詰めの武士の

友情が描かれた作品。

コレは文句なしに気持ちいいお話。

相手を敬った上での

友情がなんとも清々しい。


第5話「蒼龍」は

背負った借金を

瀬戸物屋が募集した

新年初柄の絵に

解決を託そうとする夫婦のお話。

この話だけはプロジェクトX風ではありません。

これも結末は読者に委ねられるけれど

なんとも小気味いいお話でした。


さて総論。

山本氏は基本的には

一般庶民のお話が多い様子。

この本でも長い串以外は

みな市井もの。

味わい深いけれど

リアリティを追求しているので

コレばかり読むと飽きそう。


夢物語である捕物帖の狭間に

読むと味わい深いと思います。


2007/053