部屋におかれている男ものの秋物のアウター。
その他着替えと彼の部署のシフト。
それらと睨めっこしながら過ごした怒涛の二日間のあと、一日空いて次の日。
好きな芸能人よりのざわちんのメイク術を参考にして。
服もかわいいって言ってくれたのが、大人っぽいのよりも女の子らしい可愛いものだったから、
それに合わせて洋服をチョイス。
全身鏡と睨めっこ。
素敵な彼の隣を歩くから、いやでも気合いが入ってしまう。
考えさせて、の返事の日、最初の連絡先を聞いたときに取り付けた飲みに行く約束の日でした。
「待ち合わせ場所につきましたー(^○^)」
「あら、仕事終わったって連絡ないから寝てるかと思った、ごめんこれから向かう、20分待ってて」
「了解です!」
ええ確かに仕事終わりは眠たくて大概すぐに寝てますけども!
終わってから連絡しようか迷ったけれど、会うからいいかな、とサボった自分を呪いました。
そんなこんなで待ち合わせて合流。
「お疲れ様です!」
「おつかれ、って仕事じゃないんだから、、待たせてごめん、いこっか」
「はい!」
苦笑する彼と連れ立って行く予定だったお店へ。
隣を歩くことに慣れなくて、そしていつ返事が来るのかと緊張しつつ。
緊張のあまりわたしがここに行きたいと提案したくせに方向を思い切り間違えて、
スマホで検索してマップを開いて彼に丸投げしました。
(ただの方向音痴ともいいます)
駅から数分歩いてお店に到着。
思いの外おしゃれな雰囲気で、彼のすきなビールも海外ものが多く種類が豊富。
「なに飲みます?」
「ビール……結構いろいろあるね、コロナにしようかな」
「わたしもビールにする、」
「ビールも飲むんだ?」
「うん。ビールもすき、日本酒もすき、ウォッカもすき!ウィスキーと焼酎が苦手」
「あーじゃあ俺より強いね」
「そ、そこまでじゃないですよ……たぶん。あ、わたしハイネケンにします」
注文を頼んでくれてメニューを眺めつつ、なにを食べようか悩み悩む。
共通の話題が仕事なのでどうしても仕事の話になりつつ、おなかすいてる?好きなの頼みなね、と言われメニューと格闘。
「茄子の揚げ浸し食べたい!茄子すき?好き嫌いは?」
「すき、……っていうかたぶんなんでもすき、嫌いなものはないかな、きみは?」
「ネバネバだめ、納豆とかあまりすきじゃないの」
「うえええって言ってるのが想像つくね」
「ふふ、よく言われる、納豆とか目の前にしたら全力で戦ってそうって、」
くすくす笑っているとお通しのスープとお酒がやってくる。
コロナには瓶にライムが刺さっていて、ハイネケンはグラスつきで。
揚げ浸しに、クリームチーズの味噌漬け、自家製のささみのジャーキー。
わたしが一杯目をグラスに注いでいる間に、彼はライムを瓶の中に押し込む。
「「おつかれさまでーす」」
乾杯をしてぐっと、ハイネケンはあっさりしてるからグイグイ飲めてしまう。
喉も乾いていたのもあってグラス半分くらいを一口で。
「んーっ、おいしい」
「いい顔してる」
「ねえコロナ飲んでみたい、飲んだことないの」
「どーぞお飲み」
「……すっきり!ライム合いますね、めっちゃおいしい、ありがとう!」
「いーえ」
笑顔で返すもあまりに目が合いすぎるから整った顔を直視していられず、目をそらして逃げる。
けれど視線に耐えかねて目を戻せば、やっぱり照れくさくなる。
食べ方もそんなにきれいな自信もなくて、料理をうながされるもスープに口をつけるだけ。
「ごめんごめん、見過ぎ?」
「見過ぎ!」
「あんまり見ないようにするから、ほら、食べな?」
「いただきます!……おいしーい!」
「そりゃよかった」
一晩以上漬け込んでいるのかお出汁で真っ黒に染まった茄子がとてもおいしくて、顔がほころぶ。
味がしみてて噛んだ瞬間に出汁が染み出てたまらない。
クリームチーズの味噌漬けも、丸くカットされたチーズがグラスに入っていてとてもかわいい。
味ももちろんおいしくて、お酒がとっても進む。
「お酒、次なに頼む?おなじの?」
「うん!あなたはなにかいらない?」
「俺も同じでいいかな、料理はもういいの?おなかすいてるんでしょう」
「んー海老がおいしそう……エスカルゴバターってなーに?」
「にんにくとパセリとか香草が入ったバター、これおいしいよたぶん」
「さすがですね!じゃあ海老!あとアヒージョも食べたい、」
「どれにする?」
「海老……は頼んだから、、きのこ!」
「おーけー」
ジャーキーが噛みきれなくて、手でもなかなかちぎれなくてふたりで格闘。
おいしいけれど、繊維の方向に従ってもかなりの強敵。
返事のことなんて最早記憶の彼方、目の前のお料理とお酒に舌鼓をうつ。
海老もバターの香りが豊かでとってもおいしくて、アヒージョは味がとても濃厚で少し驚いた。
一緒にいる相手が素敵だからか、お店が素敵なのもあるけれど、どれもおいしくてしあわせ。
日本酒も一杯だけ頼んでふたりで飲んで、ほろ酔いでいい感じに。
彼がお手洗いにいったあとわたしも席を立つ。
手を洗い鏡を見れば、少しだけ頬が赤い。
日本酒は好きだけどすぐに赤くなってしまうからよくない。
冷たい手で頬を熱を冷まして、一息。
お酒のせいか頬が緩んで口角があがったまま。違うな、きっと一緒にいられるのがうれしいからだ。
この数日でこんなに距離が縮まるなんでいまだに夢のよう。
頬を抓った痛みに安心する。空き巣犯に感謝さえしたくなる。
「おかえり、さて出ようか、食い逃げしちゃお」
「それはだめ、だけど、え」
手を引かれるままにコートを引っ張ってお店を出る。
接客してくれた店員さんと目があったから、ごちそうさまでした!と言い残して。
「おごってくれてありがとう、ごちそうさまでした!」
「わざわざいいのに、いいよ、これくらい」
「こんなにさらっと払ってもらったのはじめて、ドラマみたい!」
「……こんな子前にして、前の男に説教してこようか俺」
「や、だいじょうぶです!」
「そう、あ、寒くない?」
「ちょっとだけ」
「コート着る?鞄もってるよ」
「平気、でも着るからちょっと待ってね……ん!」
「うん」
繋いでた手をもう一度差し出して繋いでもらう。
ふふふ、と嬉しそうに笑えばまた視線が痛い。
「ほんとに俺でいいの?」
「何回でも言ってあげます、あなたじゃなきゃやだ」
「よくそうさらっと……このあとどうする?ラーメンでも食べる?」
「おなかいっぱい!」
「だろうね、俺もおなかいっぱい、じゃあ――駅まで帰ろうか?」
「うち来てくれるの?」
「なんのために荷物おいたと思って」
「そっか、」
また来てくれるのかなってなんとなく察してはいたけれど、改めて聞くとうれしい。
まだ付き合ってもいない、なんとなくフラれてしまいそうな気配をひしひしと感じていたから。
気に入られている自信はあった。
こんなわたしでも可愛いと思ってくれているのも、これだけ可愛がってもらっていればわかる。
それでも、なんとなく、付き合えないような。
電車にふたりで並んで座る。
混んでいるわけじゃないけれど、ぴったり寄り添って手は絡めたまま。
ふたりとも寝たらまずいね、キスしそうな距離感で笑いあう。
こんなに近くても、なんだか少し、まだ遠く感じる。