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食べかけで申し訳ない。遅めの昼食、なぜかときどき食べたくなるなる、ケンタッキーフライドチキン。美味い。食べるたびに、カーネル考案のスパイスが、俺の舌に幸せの魔法をかける。ニヒルで通っている俺も、この魔法の前では、人目もはばからず、ニンマリである。
ジューシーな肉にかぶりつく。黄金の皮が、サクリと音を立てる。たまらず溢れたヨダレが口の端から流れ落ち、マーチンのブーツを濡らす。肉汁と混ざったヨダレにまみれ卑猥に黒光りする靴先。マーチ◯ポコという言葉が浮かんで、すぐに消えた。
俺は思うんだよ。どんなにつらいことがあってもさ、その人の肩を、この、魔法のスパイスたっぷりのチキンの皮で包んであげれば、きっと笑顔になれるのではないか。悲しみも怒りも、肉汁の川に流してしまえるのではないか。

帰りのバスの中で、満腹の幸福感から寝落ちした俺は夢を見た。ケンタッキーフライドチキンの皮が、映画インディペンデンスデイのデッカい円盤みたいに空を覆い、そのまま広がって、地球を包み込んでいった。

江口