かつて俺の通った小学校に、コジマという男がいた。6年間、同じ学び舎に通った仲間だが、俺はコジマの長袖姿を、一度も見たことがなかった。
コジマは、どんなに寒い時でも、12月の雪風が吹き付ける日にでも、半袖で通学した。理由をたずねたら、コジマはめんどくさそうに、こう答えた。「別に、寒くなかもん。」今の時代に、このような豪傑少年がいるだろうか。10月になっても、俺がなかなか半袖Tシャツスタイルをやめないのは、元来の汗かきだけが理由ではなく、コジマへの憧れでもある。
同じ校内に、シゲハという男がいた。半袖のコジマ、半ズボンのシゲハ。そう、シゲハもまた、どんなに寒い冬の日にでも、必ず半ズボンで登校するという豪傑であった。その代わりシゲハは、野球用のハイソックスを、膝上までズリ上げていた。そう。日本で誰よりも早く、ニーハイソックスを考案した男でもあるのだ。同時に、俺が初めて見た絶対領域は、シゲハのそれである。