あまりに莫大なデータが詰まりすぎていたせいだろう



俺の携帯は



火傷しそうなくらいに熱を持ち



画面も


ちょっと膨らんで



ボタンとボタンの間も


なんか
肉みたいなのが

ムクって盛り上がってる


そんな感じになってた





思い出は


重荷になることの方が多い




俺は



アルバム40冊分はあろうと思われる


携帯で撮った写真を




削除することに決めたんだ




フォルダを開けると



懐かしい写真が並ぶ




カムチャツカ半島で会ったロシアの軍人と
ボドカ(ウォッカ)を酌み交わす一枚


流氷を

グラスに浮かべて飲んだっけ






四国で出会った子供達と
1ヶ月かけて作った
でっかい船を
イメージと違うからと
燃やしてしまった時の一枚


うなだれたまま

呆然と火を眺める子供達


妥協はするな

という

俺からのメッセージは

伝わっただろうか






女とデートがしたくて
後輩を
プロのメイクアップ集団の手によって
あびるゆう似の
極上の美女に変身させて
横浜のみなとみらいを
手を繋いで歩いた時の一枚


あの日のお前は


確かに


ひとりのかわいい女だったね







数えあげれば

きりがない




知床でヒグマと相撲をとる俺


地元の漁師達と
一緒に網をひく俺


灼熱のアフリカ
収穫祭で
現地の人々に
ブランキージェットシティの
『ガソリンの揺れ方』を弾き語りをしている俺




自分はオネエといつわり仲良くなったOL達と
グァムのビーチにて
ハーレム状態でピースサインの俺






どの俺も






とびっきりの笑顔で



笑ってやがる









深呼吸をして




俺は静かに


削除ボタンを押した












さあ





街に繰り出そう





ドキドキの詰まった未来にむけて



俺は

携帯のカメラを構えた






江口