倉持裕さんが作・演出を務める「帰れない男〜慰留と斡旋の攻防〜」を観てきました。
主演は林遣都さんで、出演舞台を観るのは(たぶん)PARCO劇場で上演された「セールスマンの死」以来になります。
大好きな山崎一さんも出演していたのでチェックしていたにも関わらず、発売日を間違えるという失態を犯しましたが、何とかチケットは取れました。
しかも、左列ながら比較的前方席だったのでとても良く観えました!
作家である野坂(林遣都)が、あることで助けた女性・瑞枝(藤間爽子)に招かれて訪れた屋敷から帰れなくなるというお話。
もちろん、その家が広大で家の者の案内無くしては出口にたどり着けないという物理的な理由もあるのですが、「家の主が戻るまでは・・・」と引き留める瑞枝や女中・文子(佐藤直子)の引き留めも強く、妻と上手くいっておらず帰りづらい自分の事情も抱えています。
そうこうしているうちに戻って来た主の山室(山崎一)にも歓待され、その屋敷に居座ることになってしまいます。
瑞枝は山室の後妻で歳の差が大きく、彼がそのことに負い目を感じているのか、それとも-物語が進むにつれてわかるのですが-前妻への想いを忘れられない故なのか、野坂と瑞枝が接近するように仕向けている節もあります。
紳士然とした山室が見せる表情の変化が瑞枝との微妙な関係性を表しているようにも思いますが(このあたりの山崎さんの表現が絶妙!)、野坂はその思惑どおりに瑞枝に惹かれていきます。
山室の野坂に対する慇懃なまでの接し方は共謀を促すような雰囲気も醸し出していますが、それは山室と瑞枝の夫婦関係を保つために必要なことだったのかもしれません。
それを彼女も分かっているのか、分かっていないのか・・・?
また、藤間さんの纏う怪しげな空気感も良いのです!
時折、野坂の友人の西城(柄本時生)が彼を連れ戻そうとやって来るのですが、彼は彼で野坂の妻に横恋慕しているらしい・・・さらに話はややこしくなっていきます。
野坂と瑞枝の想いが成就しそうな感じになるのですが、そこからの展開は描かれることなく、彼が書いた作品が成功を収めた数か月後へと時間は移ります。
彼の成功を喜ぶ山室に反して瑞枝の態度は冷たく、女中に対する発言に苛立った野坂がキレて、それを取りなすように別室に向かった山室が衝動的な行動に走るという結末を迎えるのですが、そこに至る彼らの沸点がどこにあったのかはよくわかりませんでした。
ただ、昭和初期という時代設定が活かされていたのか、幻想的で、妖艶で、倒錯的なお話を不思議と現実離れしている感覚はなく観ていました。
カーテンコールでも瑞枝の役柄のイメージを保っていた藤間さんが印象的でした。