プロローグ
鼻にはかすかな蚊取り線香の香り。
耳にはとけ込む程度の風鈴の音色。
祭りの終わりの様なこの切ない感じ。
雰囲気が溶け合い、夏も終わりが近い事を物語る夕暮れ時。
この枯れた様な、かさかさとした空気感を、僕は嫌いではなかった。
何時もなら大きく一つ深呼吸でもして胸いっぱいにこの季節を詰め込み、楽しみたい所だ。
心が満たされ、体も軽くなる。
何時もならね。
しかし今日は違った。
その歩みを進めるには、今日はその心が重すぎる。
どうしようか。止める事はさほど難しい事ではない。
正直、踵を返して帰宅も俄然可能だ。
だけど僕はこの道を進まなければならない。
そう。今日こそは。
つま先を見続けながら
一歩
また一歩
進むごとに帰ろうか、いやこのまま歩もうか。
頭の中で反芻する苦い記憶。
払拭したい、不味い血合いの様な赤黒い記憶。
早く切り離したいのだ。
告白さえしてしまえば少しはおいしく租借出来る筈だ。
ざっと風がふいた。
…僕はなんとなく背中を押された気がして顔を上げた。
いつの間にここ迄きたのだろうか?
道のりの事は覚えていない。
目の前は既に目的地だった。
…だめだ
目の前にすると体からは暑さからではない汗がじっとりと体を覆った。
…やはり明日にしよう…
そうだ!
今日の朝の占いは「口は災いの元!何事も慎重に!」そう言われたではないか。
僕は汗でベタつく手を固く握りしめ目的地に背を向けた。
いいんだ。今日はよく頑張った!
今日は目の前迄来れたじゃないか!記録更新だ!
因に昨日は手前の十字路を曲がった電信柱に2時間程身を隠してから帰った。
明日こそはきっと言い出せる!だから今日は早めに寝よう。
その前にイメージトレーニングをして、大好物の、きな粉棒を多めに食べよう!
そうやって明日に備えて、万全に勤めるんだ!
…昨日も全く同じ事を言ったな。
明日、明日でかれこれ夏も終わろうとしていた。
はぁ…やっぱり今日の方がいいかな…?
いつかは言わないと…行けないのは解っている。
そうしないと僕はここから先に進めない。
再度振りむき目的地を見上げた
「ねぇ何してるの?」
…本当だ。俺は毎日毎日何をしているのだ。
ん?何か聞こえたか?
軽く首を左右に振るが特別誰もいないようだ。
聞き違いか。
はぁ…やっぱり今日はもう帰ろう。考え過ぎだ、幻聴迄聞こえている。
早く寝て体調を整えて改めよう。
「…ねぇってば!お兄ちゃん!…あれ~?聞こえてないかな?…………えい!!」
ずがっ!!!
!!
股間に激痛が走った。
前触れなく訪れるこの痛みは背骨を伝わり頭の先迄電撃の如く突き抜ける。
男なら到底我慢の出来る訳のない極大の痛みだ。
え!?なになに?なんだ?
僕は情けなく内股になりながら、また辺りを見回した。
??やはり誰もいないではないか。いったい何が起こっている?
為に一夏かけて溜め込んだ罪悪感から、体に異変が起きたのか?
はたまた虹玉でも出るのだろうか?
まさかこの歳で打ち止め!?
そんな…これが罰だって言うのか?
…いや仕方ないか。
あるいは、甘んじて受け入れなければなるまい。
何せ僕はそれだけの事をしたのだから。
今の僕にはお似合いの罰だ。
受け入れろ!僕のコスモ!
俺が一人悶絶する脇では何やらモゾモゾ動く小さな陰が。
「あれ~ちょっと弱かったかな…ン~?あ、でも少~し感じるかなぁ…ケケヶ…いいぜぇ…今日は糞ババァもいないし久々に濃いのが飲めそうだぜ…血と混ざったのなんて数年ぶりだぜぇ…じゅるり」
…バキバキッ
バキバキッッ!!!
恐らく骨を鳴らすと言うよりも折るような鈍い音が辺りに鳴り響いた。
目を落とすとそこには修道着を纏った幼女が一人ニコニコしながらシャドーボクシングをしていた。
金の髪、赤い瞳、ブカブカの修道着に………角?
帽子を突き破りる形で、比較的立派な角が鎮座している。
幼女は抱えた竹箒を地面に投げ捨てブカブカの袖を目一杯迄まくり上げた。
「しゅ!しゅ!」
まだ咲きかけの可愛い蕾の様な唇を尖らせて素振りをしはじめた。
「しゅ!シュッ!」
ぶぉん…ぶぅおん…
素振りは回を重ねる毎にあたりの空気を巻き込みながら、うねる様に鳴り響き始めた。
しゅ!ブゥオゥン…
シュ!!ブゥオオオン!!
シュ!!!!グォォオオオオオン!!
はじめはニコニコと正に天使の如き笑顔で素振りをしていた幼女の顔は、何時の間にか精悍な顔立ちに印象を変え、額に汗しながらひたすらにその爪磨いでいる。
ひとしきり素振りが終わったのだろうか?
額の汗を軽く拭った幼女は一言
「…うし…」
低い声で唸った。
そう、正に唸ると言った感じの低い声。
僕は既に解っていた。
先程の股間の衝撃も、今目の前の少女から放たれた一撃である事を。
そして研ぎすまされたその爪は…恐らく自分に向けて放たれるであろう事を。
残暑と言うにはまだ早い暑さの中、僕は背筋に異常な寒気を感じとった。
恐らくまた…股なのだろう。
先程の効果音からして、虹の玉が出る前に金の玉が潰れるのは間違いない。
ふぅ…
息を整えたその幼女はいよいよ腰の当たりに拳を構え徐にこう唱え始めた
「ジャン…ケン…」
「!!!やめてーーーーーーーーーー!」
僕は思わず叫び、その場に座り込んだ。
それ以上言ってはだめだ!いろんな意味で!
恐らくグーが放たれるであろうその拳はなぜかかすかに光って見えた。
オーラ?
幼女はそのままの体制で顔だけ上げ、僕の顔をじっと見てとても残念そうに構えを解いた。
っち
幼女は下を向いて小さく舌打ちした。
舌打ち?え?何の舌打ち?
本当の本当にあんな一撃をお見舞いするつもりだったのか?
下を向きぶつぶつと何かを唱えている幼女。
なんだ?なんだか人間の出来る発音とは少し違う。
しかし竹箒を拾い、改めて顔を上げた幼女はすっかり元通り、天使の笑顔だ。
「こんにちわ!お兄ちゃんじ~っとして全然動かないから…昨日も来てたよね!そこの電信柱の所に…そうだお兄ちゃん!そんな所に座ったら汚れちゃうんだよ!早く立って!おズボン汚すとバ…ママにすっごい怒られちゃうんだよ?」
初弾が今になり腹の奥で響き初め、僕はその場で座り込んでいた。
「早く立たないとだめだよ!あっでも今は立たないかな?強くすると勃た無いんだもんね!さっきは久しぶりだったから力のね、加減が良くわからなくなっちゃって!」
そう言い訳をする彼女はなぜか僕の股間に話しかけている様に見える。
そして何かを我慢する様に鼻息を荒くし始めた。
「…大丈夫?…ンフゥ~…お兄ちゃん…ちょっと…フゥ~…強くしすぎちゃったのかな?どうしよう…!ごめんね!優しくしたつもりだったのに!はっ早く脱いで!怪我しちゃったのかな!血…!血が出てるかも!!!!!」
そう言うと、少女は両眼の眼を烈火の如く赤く光らせ、僕の股間に頭を突っ込む様にまさぐり始めた!
「!!っっだ、大丈夫だよ!ほら立てるから!」
僕はあわてて股間から少女をひっぺ返し、立ち上がり両手をガッツポーズ。全然平気と無事をアピールした。
もはや幼女とは言えない、だらしのない顔で彼女はただひたすらに僕の股間を凝視している。たまに喉を鳴らして生唾を飲み込んでいる始末だ…。
口元の涎を袖で拭くと少し落ち着いたのかようやく顔を上げた。
…改めて見るとなんとも綺麗な少女ではないか。
正に天使…金色の長い髪は風に揺れると重力に縛られずに踊り、全く濁リのない極上のルビーをそのままはめ込んだ様な大きな緋の眼。身の丈に不釣り合いな竹箒などは何とも愛らしいチャームポイントではないか。
別にそういった趣味のない人間でもこれはこれは可愛いと娘だと、悪代官の様にべろべろと舐め回す様にいじくりたくなる。
…と言うよりも人のそれとは全く違う気配と言うか…幼女の物とは思えない色気というか…
視覚的要素で行くと
む…胸がでかい。
正にトランジスタグラマーとはこの事か。
生で見るのは初めてだ。
…それとなんと言うか…なぞの角。
「よかった~ちゃんと勃ってるね!」
少女の声にはっとした、僕はさっきとは違う痛みに目を落とした。
なんと僕の息子は少女の問いに呼応するかの様にびん!びん!と脈打っていた。
先度まさぐられたときだろうか?
!この子一瞬で何をしたんだ!
「うんうん!元気だね!これなら大丈夫!じゃあ中に行こっか!お兄ちゃんは…懺悔…しに来たんでしょ?」
少女はガバっと多いかぶさる様に僕に迫り、はやくはやくと、せかす様に僕を握った。
手ではなく、例の一物を。
僕は余りの事に意味が分からずその場で立ちすくんでしまった。
「はやくはやく!!」
うんしょ!うんしょ!
わざとらしく口に出しながら綱引きする様に僕を…というか息子を…というか僕を引っ張った。
時は夕暮れ。
周りには買い物帰りのお母さん、学校帰りの女子高生、仕事帰りの汗だくお父さん…はうらやましそうにこちらを見ている。
はっとした僕はあわてて少女の手を剥がしにかかった。
「辞めてくれよ!いく!行くから!」
彼女はなぜか不思議な顔をして僕の顔を覗き込んだ。
「?辞めたらイケないんじゃないの?」
!!何だこの子は!?解って言っているのか?
さっきから逐一、文章の変換が上手くかみ合わない。
少女は相変わらずきょとんとしながらこちらを見上げている。
とにかく周囲の視線が大分イタい事になっている。
あぁお母さん!携帯電話を握らないで下さい!
僕何もしてないですから!されてるだけですから!
「とっ…とにかくおいで!中に入ろう!」
「中に…入れるの?」
………
ピピピピピピピピ!!!!!!!!!
ギャラリーが一斉に携帯電話をかけ始めた!
ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
僕はーーーーー!!!違うんですーーーーーーーー!!
僕は身の丈150cmに満たないだろう女の子を抱え目的地であった教会に駆け込んで行った!
どーーーん!
僕たちが荒々しく中に入った瞬間、ぱぁーーーっと教会が七色に光り始めた
電飾だらけのその建物に、はっきり言って神の御加護はないだろう。
程なくして、今日も悩める子羊が達が群れ始めた。
クラブザンゲ
しっかり聞きます貴方の懺悔
今日も元気に開店です!
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