亜也は、養護学校で寄宿生活を送ることになった。
そんな亜也の大きな助けになるのが電動車椅子だ。
歩ける場所は自分の足で歩く、と決めている亜也だったが、ひとりで自由に動くことが出来るのは彼女にとって大きな喜びだった。
一方、父親の瑞生は、亜也のことが心配で仕方ない。
潮香は、亜也が自分で決めたことなのだから笑って送り出してあげよう、と言って瑞生を励ました。
あくる日、池内家では、小学校に入学する理加の入学祝いパーティーが行われた。
その席に半ば無理矢理、遥斗を連れてくる瑞生。
亜也と遥斗が会うのは、東高の終業式以来だった。
その席で、潮香は亜也にも入学祝を贈った。
それは携帯電話だった。
養護学校初日、亜也は、不安で押しつぶされそうだったが、努めてそれを表に出さないようにしていた。 亜也と潮香を出迎えたのは、担任のまどかだ。 まどかは、校内を案内すると、ボランティアでこの学校を手伝っている高野らを紹介した。 ルームメイトは、亜也と同じ病気と闘っているひとつ年上の少女・明日美だ。 亜也は、養護学校で生活する明日美たちの意外な明るさに戸惑っていた。 そんな折、亜也の携帯電話に、遥斗から電話がかかってきた。 遥斗は、かつてのクラスメイトの近況を亜也に報告した。 |
それから2ヵ月後、潮香は、常南大学医学部付属病院を訪れ、亜也の担当医・水野に会う。 そこで水野は、亜也の検査結果があまり良くないことを潮香に告げた。 このまま病状が進むと、固形物の食事が難しくなるだけでなく、発声なども困難になっていくことが予測されるというのだ。 また、四肢の機能低下によって転倒が大きなケガにつながったり、ちょっとした風邪が合併症を引き起こしたりする可能性もあるのだという。 |
そのころ亜也は、懸命に歩く訓練を続けていた。 それを見たまどかは、生活のペース配分を考えるべきだと彼女にアドバイスする。 どこまでを自分でやって、どの程度の補助をしてもらうか、折り合いをつけることが大事なのだという。 実は亜也は、電動車椅子を使い続けていたら、自分の足で歩けなくなってしまうのではないか、という恐怖感を抱いていた。 |
数ヵ月後。耕平、慶太とともに文化祭の準備のために図書館を訪れた遥斗は、熱心に受験勉強をしている亜湖に出会う。 亜湖から、最近亜也が元気ない、と教えられた遥斗は、彼女の携帯電話に電話し、次の休日に水族館に行こう、と誘う。 亜也が遥斗からの電話を待っていたことを見抜いていた明日美は、そんな彼女を冷やかした。 遥斗がまだ進路を決めかねていることを知った芳文は、自分の好きな道に進めばいい、と彼に告げた。 芳文の意外な言葉に驚く遥斗。 続けて芳文は、亜也の話を切り出した。 どれだけの覚悟があって亜也と関わっているのか、と芳文に問われた遥斗は、何も言うことが出来なかった。 |
約束の日、亜也は、遥斗とともに水族館を訪れた。 大きなプールの中を自由に泳ぐイルカたちの姿を、うらやましそうに見つめる亜也。 イルカは人間の耳には聞こえない超音波で物体の位置を確かめたり、遠くにいる仲間と会話したりしているらしい、と遥斗に教えられた亜也は、人間も遠くにいる人とそんな風に話せればいいのに、とつぶやいた。 遥斗は、そんな亜也のために、おもちゃのイルカが付いた携帯電話用のストラップを売店で買い、亜也と自分の携帯電話につけた。 亜也は、その場所を教えようとするが、母親には亜也の言葉が聞こえづらいようだった。 そこに戻ってきた遥斗は、亜也の表情が曇っていることに気づく。 |
水族館を出た亜也と遥斗は、バス停に向かった。 が、ちょうどバスは出発した後だった。 遥斗は、大通りに出てタクシーを拾おうとするが、亜也が電動車椅子に乗っているせいか、素通りされてしまう。 そのとき、急に雨が降り出してきた。 遥斗は、自分の上着を亜也にかけ、雨宿り出来る場所を探した。 |
亜也と遥斗は、瑞生たちが手配したワゴンタクシーで池内家に戻った。 ずぶ濡れの亜也を見た潮香は、思わず遥斗を怒鳴りつけた。 潮香は、怒鳴りつけたことを詫びるとともに、いまの亜也は些細なことが命に関わる場合もある、と打ち明けた。 亜也からだった。 亜也は、迷惑をかけてしまったことを遥斗に詫びた。 が、雨のせいか、その言葉がよく聞き取れない遥斗。 亜也は、ショックを隠しながら、もう遥斗とは住む世界が違うのかもしれない、と言って電話を切った。 水野は、声が出しにくくなってきた、という亜也に、伝えるのを諦めなければ相手には必ず伝わる、とアドバイスする。 そこで遥斗は、亜也のためにも絶対に明和台東高校に合格したい、という亜湖の強い決意を知る。 「出来ることがあるのに、しないでボーっとしてるなんて絶対嫌」。 亜湖の言葉に、遥斗は何かを決意したようだった。 |
遥斗は、亜也のいる加住養護学校に向かった。 すると亜也は、夢を見た、と話し始めた。 夢の中の自分も体が不自由だった、と言いながら、涙をこぼす亜也。 遥斗は、そんな彼女に、自分の気持ちを伝えた。 いまは頼りにならなくても、いつかは亜也の役に立ちたい―― そう亜也に告げる遥斗。 そして彼は、 「お前のこと、好き…なのかも…多分…」 と告白した。 |
亜也は、まどかのアドバイスに従って、図書館を利用するときは電動車椅子で移動することにした。 養護学校の壁には、亜也が書いた詩「朝の光」が貼られていた。 潮香や瑞生の後ろから現れたのは、亜也が着ていた東高の制服を身に着けた亜湖だった。 亜湖は、東高に合格したのだという。 亜也の夢を引き受けたから、という亜湖の言葉に、亜也は涙を堪えてうなずき… |
亜也は、滑らかな発音が難しくなる構音障害が進行していた。
亜也の診察をした担当医の水野は、養護学校卒業後、亜也が進学や就職をするのは困難であることを潮香と瑞生に伝え、在宅でリハビリに励んではどうか、と助言する。
加住養護学校の卒業式を終えた亜也は、これで自分の居場所がなくなった、とつぶやく。 それに気付いた潮香は、亜也のために用意した部屋を見せ、家族皆で温かく迎え入れる。 遥斗は、常南大学医学部に合格していた。 まりたちも大学に進学し、春からは新しい生活が始まるのだという。 亜也は、皆の話を笑顔で聞いていたが、その表情はどこか寂しそうだった。 潮香や遥斗は、そんな亜也のようすが気になっていた。 |
別の日、リハビリのために常南大学医学部附属病院を訪れた亜也は、そこで遥斗に会い、学内を案内してもらう。 楽しそうに並んで歩くカップルの姿を見つめていた亜也は、ふいに 「どうして人間は歩くのかな?」 と遥斗に問いかけた。 恋人同士も歩きながら将来のことを語り合う、という亜也の言葉に、遥斗は何も返せなかった。 どうして医者になろうと思ったのか、と水野に問われた遥斗は、亜也の姿を見ていて人の役に立つ仕事がしたいと思った、と答えた。 すると水野は、亜也を見ていると自分も自然と背筋を正される、と遥斗に話す。 |
亜也のことを遥斗に任せて家庭訪問に行っていた潮香は、亜也を迎えに行く前に一旦帰宅した。 その際、机の上から落ちた亜也の日記を偶然見てしまう潮香。 そこには、「お母さん、過ごしやすい居場所が欲しいわけじゃないの。これから先、どう生きていくか、そのことを考えていたの」と記されていた。 すると亜也は、突然、入院させてほしい、と潮香と水野に懇願する。 まだ自分の力で歩くことを諦めたくないから、毎日リハビリをしたい、というのだ。 |
別の日、潮香の元に、加住養護学校を手伝っているボランティアの喜一がやってきた。 亜也の担任だったまどかと結婚することになった喜一は、亜也たちに結婚式の招待状を持ってきたのだ。 さらに喜一は、自分が勤務する出版社で発行している難病患者やその家族を対象にした会報に、亜也の書いた詩を掲載させてほしい、と頼む。 |
常南大学医学部付属病院で潮香に出会った芳文は、亜也の病状を尋ねた。 歩行がますます困難になり、日を追うごとに人の助けが必要になることに思い悩んでいるようだ、と答える潮香。 続けて潮香は、遥斗に対する感謝の気持ちを芳文に伝えた。 すると芳文は、亜也のおかげで遥斗が変わったことを認めながらも、医者ではなく父親としては、遥斗が亜也に関わることには反対だ、と言い出す。 いつか遥斗が亜也に背を向けたとき、一番傷つくのは亜也だというのだ。 そこにやってきた潮香は、まどかと喜一の結婚式のことをふたりに伝える。 ちょうどそこにやってきた遥斗に、泣きながら 「来ないで!」 と訴える亜也。 着替えを持ってきた潮香と亜湖も、亜也の異変に気づいた。 潮香は、遥斗に部屋を出るよう告げると、泣きじゃくる亜也を優しく抱きしめた。 |
その夜、亜也は、眠ることが出来ず、病院の電話コーナーから家に電話しようとする。が、手が震えてしまい、上手くボタンが押せず、カードが戻ってしまう。 潮香に気づいた亜也は、眠るのが怖くて潮香の声を聞きたかった、とポロポロ涙をこぼした。 「あたしに出来ること…もうひとつもなくなっちゃうよ…」。 そういって泣き続ける亜也を抱きしめていた潮香は、ある決意をした。 潮香は、病室に戻ると亜也が書き続けていた何冊もの日記を取り出し、亜也には書くことがある、と告げた。 亜也は、そんな潮香に懸命に手を伸ばして応えた。 |
まどかと喜一の結婚式の日。 亜也は、潮香、瑞生とともに式に出席した。 まどかの美しいウエディングドレス姿を眩しそうに見つめながら、祝福する亜也。 まどかは、亜也の病状が進んでいることに気づき、涙ぐんでいた。 そこに、遅れてタキシード姿の遥斗がやってきた。 そんな遥斗の姿を見て微笑む亜也。 と、そのとき、歓声が上がり、まどかが放ったブーケが、電動車椅子に乗った亜也の膝の上に落ちた。 遥斗は、照れながらそれを受け取った。 教会の鐘が鳴る中、亜也は、遥斗の姿をそっと見つめていた。 水野たちは、ただちに処置を開始した。 |
麻生くんへ
面と向かっては素直に言えなそうだから手紙を書きます。 いつもそばにいてくれて、ありがとう。 励ましてくれて、ありがとう。 自分の夢を見つけて、生き生きと輝いている麻生くんをみると、 私も嬉しくなります。 いろんな事を学んで、いろんな人と出会って、 あなたはこれからもずっとずっと生きていく。 あなたの未来は無限に広がっている。 でも、私は違います。 私に残された未来は、何とかして生きる、それだけ。 たったそのことだけ。この差はどうしようもありません。 毎日、自分と闘っています。 悩んで、苦しんで、その気持ちを抑えこむので精一杯です。 正直に言います。 麻生くんといると辛いです。 あんなこともしたい、こんなこともしたい、 もし健康だったら出来るのに、と思ってしまうんです。 麻生くんといると、叶わない大きな夢を描いてしまうんです。 もちろん、麻生くんのせいじゃありません。 でも、うらやましくて、情けなくて、 どうしてもいまの自分がみじめになってしまうんです。 そんなんじゃ、前を向いて生きていけないから。 色々してくれて、ありがとう。 こんな私のこと、好きって言ってくれて、ありがとう。 何も返せないで、ごめんなさい。 もう、会えません。 亜也 |
封筒の中には、イルカのストラップが入っていた。 遥斗の目からは涙が溢れていた。 「…わたし…結婚できる?」。 潮香、瑞生、水野は何も言うことが出来なかった。 亜也は、ぽろぽろと涙を流しながら、「いつか」が来たら花に囲まれて眠り続けたい、と言いだし…。 |
