何ともやるせない気持ちのまま貞旭の家にやってきた。貞旭はその姿を見て転び出てきて、手を引いて上座に座らせた。無事に帰って来てくれた嬉しさ、涙がとめどもなく流れた。本当の母親のように、その主人もこれまでの過ちを後悔した。

 

貞旭は風呂を沸かしていれてやり、親の衣類を出してきて着せた。その夜は良き生きて帰ってこれたと言って喜び、翌日になると貞旭は身支度して主人に向かって言った。

 

「私はあなたの御母上が嫁入りのときに、お里から付き添いの下女でございます。前の旦那様におめかけ下さり、本妻と同様の暮らしをさせていただきました。身にあまるほどの有難いことでございました。こんな事も起きるかと思い、前の旦那様に勧めて道具をここに持ってきて全てここに残っております。今これをお渡しいたします。この道具のうち要らないものは売り払い、またこの証文は貸し付けのものです。これを取り戻して元手にして商売に使ってください。こうしてすぐに元の状況になり、恥辱をそそぎください。私は兄弟の世話になります。そもそも私が住むべき小さな庵はかねてから作ってありますので、少しもご心配なさらにでください。」

 

というと出て行こうとする。主はそれをとどめようとするがついに出て行ってしまった。こうして故郷に帰って余生を過ごした。女ながらも忠貞な人は希である。最初は罵っていた人は勿論、誉めなかった人はいなかった。