祝の兵と愁の兵と合戦の様子は、忠臣によって富貴軍の大将身上直義公が将軍を集めなさった。今回の合戦は一朝一夕にはいかず、その上愁の兵たちが敵に加勢し始めた。

 

「味方と祝軍が力を緩めるとは言うが、何分貧軍が強いのでなかなか討ち取れない。こうなっては計略を仕掛けて討ち取ろう。さあ、良い案はないだろうか。」

 

軍議をしている中から、抜目内膳は進み出て言った。

 

「それがしの案ではこんな目に余る貧の大軍とその他多くの愁の兵たちをなかなか討ち取れない状態です。まず計略をもって死に武者を追い散らして勢いがなくなったところを貧軍が弱気になったところを討ち取れば、太平になるでしょう。これを実行するのに一つ案があります。まず、味方が蓄えた宝や玉を取り出して、箒をつくって玉箒と呼びます。この玉箒で敵に酒を振りかければ愁の兵たちはどうしようもなくなって、すぐに逃げ出します。昔から酒は愁を追い払う能力があります。この案はいかがでしょうか。」

 

するとその場にいた者たちはもっともだと頷いた。早く実行するべきだと声が上がり、慈悲心左衛門が進み出て言った。

 

「抜目殿の計略は最もで、抜け目がないとは思いますが、それがしが思うには酒でも焼酎や南蛮酒に泡盛のような強い酒をふりかけて、酒飲みの者たちは足腰立たず、くだをまいてそのうち面倒に感じるようになるはずです。勿論愁兵の奴らは、憎たらしいことをやってきているが、その罪を憎み人を憎まずとはこのことです。そして酒をかけるのであれば、銘酒を使いましょう。銘酒であっても伊丹四郎が鍛え剣菱がいいでしょう。剣と菱にはかないません。こうすれ愁兵は益々退くことになりませんか。」

 

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剣菱という実在のつくり酒屋さんがあり、この本が書かれたころにはすでに操業しています。もしかしたらこの本のスポンサーになっていた?