あるとき市に出て魚を買いに行った。魚屋達はこの様子をよく知っていたので、二十銭で五六十銭分の魚を出してやった。それを買って老母に勧めると、必ず隣の婆さんを呼んできて御裾分けしていた。これは、日ごろ老母と仲がいいので、その人にも食べさせたいだろうと思ってのことである。この老母は生まれつき悠長な性格なので、苦労しているさつにお世話になるのを申し訳ないとは思わないのは、自分が生んだ子が不憫な育て方をしてしまったからだ。さつもこの気持ちを汲んで実の母よりも孝を尽くした。形は主従ではあるが、心は親子である。よそよそしさは全く無い。

 

ある時老母は茶飲み話で、

 

「東国生まれの者は日光と鹿島神社を参詣するものだが、あたしは女だからねぇ、そう気安くはいけないよね。」

 

というので、さつは「さあさあどうぞ」と言い出した。

 

「私もこのところ参拝したいと思っておりましたが、その思いを理解しておらず過ごしてきてしまいましたので、その願いをすぐに御供いたしましょう。」

 

と、旅の用意をして彦四郎を寺に頼んで預けて、老母を馬に載せて、本人は草鞋に脚絆をつけて馬から離れず、介抱しながら日光、筑波、鹿島の途中のお堂や神社すべてに参詣して、往復二十日かけて行ってきた。そのかいがいしさは、とても男にはできないことである。その後も湯治に誘いお供をして、談義開帳近辺の寺社仏閣までも、全て廻った。

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ヘレン・ケラーのサリバン先生みたいな関係なんですかね。

 

たまに嫁と義母の関係かこんなに仲がいいこともあります。どんな関係であっても、仲がいいことに越したことはありません。