とかく商人は商売のやり方が大事、金儲けは始末と精を出すだけではありません。はて一生の間に食べず着ない、精出して儲けて金を貯めていても、大して貯まりはしないのです。そんなに大きな金はできないのです。時にまた商人の出世は、その商売柄によるのです。大坂にいたときに出世するかどうかの人相占いに見てもらったところ、生まれつきの気性がおおまかなので、人を多く使う商売を思いついたならば出世できると聞きました。心の中でこの商売をしてみたいと思うようになり、予定と一致したのでこの呉服商買を今の店の通りにいたしたいと初心発心で思いました。私の身では今が立身と峠で、掛け屋敷[1]から土蔵かけて二百か所ほどになり、これからは身分相応の贅沢を致しても、これからの一生で財産が無くなるようなことはないと思い、還暦のお祝い、粗末なお酒と差し上げるのも、少し驕ってみたのです。お尋ねの後学にもならないような長話でございまして、皆様退屈なさっているようでございますが、とても事に私の家の掟書き、手代たちに申し聞かせています。商人の心掛けの箇条、おなぐさみだてらにお聞き下され。」

と一巻を取り出して、さらさらと開き眼鏡をかけて頑丈な親父、口のところには文言があるが、

「これまで申したよう商売の方法、様々な事を書いてきましたが皆様が読むには及ばず私が読みましょう。」

 

一 商売以外の利益や口銭を取ろうと思ってはいけない。

一 喩え一分二分の買い手であっても粗末にしてはいけない。

一 五両以上の商売には、座敷へあげてお酒をさし上げなさい。

一 店の中にいるお客さんが、あれこれとごらんになって気に要らない様子でも、どうなろうときちんと働き、御用があれば対応し、決してお客さんが何も持たずに帰すようなことはあってはいけない。これが重要である。

一 遠方から買いに来るお客さん、女中や子供など夕方になれば、必ず人をつけて宿まで送り届けること。

一 品物によってはお金が足りなくなっても、家をお尋ねして商品をお渡しして、付き添いまではしなくてよい。

一 銘々毎日二十両以上の売り上げがあるときは、帳面に書いておいて、決済のとき、それぞれに褒賞すること。

だいたいこのような考えで商売を律儀に勤めて役頭[2]以上の者へは、三年目の大勘定のとき褒美金を配るように命じたように首尾よく勤めた場合は、必ず元手を与えなさい。

 

しかし、家の決まりによって三つの港では同じ商売が禁止である。他の商売であればよい。もちろん商人は休日がないと思いなさい。商売に心掛けている者は、特別に手当てをしてあげなさい。こうして、家法はこのような物であると読み上げても、そんなもんタカが知れているとばかりに柱に寄りかかって寝ている者もいる。また出世した人の根性は特別であると記憶して帰ってそれぞれ噂して、出世する商人の成り立ちを伝え、このように記した。

 


[1] 他町や他国に持つ町人の屋敷。

[2] ここの意味が分かりません。管理職の事だとは思いますが。

 

商売をするうえで一番重要な事は、商品でもサービスでもなく信用だと思っています。信用がなければ、良い商品を仕入れたり開発しても、全く相手にしてもらえません。そのためには正直が必要だと思っています。

 

その一つとして、ここでは口銭を取らないとしています。つまり紹介料を取るなと言っているのではなく、販売会社なら商品を売って金を貰いなさい。他を紹介してそこから取ろうなんてことは良くない、本来の仕事である商品の販売をしなさいといているのだと思います。

 

そして信用を得るためには、相手を信用してあげなさいということなのでしょうね。