ここに靴を製造販売する者に二人の弟子がいた。一人は細工が上手く、もう一人は下手である。主人は二人に命じて、別家させ靴を作らせた。

下手な方の弟子は、一心不乱に靴を作り人並みの生活をするに過ぎなかった。もう一人の上手な弟子は雨のときに靴を作り、天気が良いときは草履を売っていたが生活は今一つだった。かえって下手な者より生活が悪く貧乏になったため、主に言った。

 

「私は、雨の日に靴を作り売り出し、天気が良いときは草履をうり片時も油断なく、雨の日も利益を得て天気の良い日も利益を得て、世間でいうのこぎり商売をしていますが、あの下手な者に劣って貧しい生活となっています。」

 

主人は言った。

 

「それはそうだ。だいたい芸が多い者にその芸に詳しい者はいない。今一つの者は確信をもって行動することが少ない。一芸に名を得ようとする者は、その芸の他を顧みず、志を一つにしなければならない。あの事もこの事も学んで、一芸一時に志を集中させなければならないから、名人の域に達しない。お前は、靴作りが上手いにもかかわらず、靴を作る肝心の仕事に集中せず、雨の日は靴天気が良いときは草履と浮ついている。そんな黙らない状態では、名人の名は得られない。有名にならなければ、人はお前を知らない。知らない所にどうしていくことがあろうか。あの下手な者は他の事をにしないで、靴を作る事に専念しているので、今では名人となって知られ、商売をして貧しくはない。お前は、雨のときに靴を売り、天気が良いときは草履を売り、両方続けていることをのこぎり商売と思っているが、世間の商売でのこぎりであるはずがない。安く買って高く売りしろがない。その間に利益を得る事を生計を立てることと考えて見なさい。みなのこぎりではなく、今日の生活をどうするか、お前はこの事をよく考えて、靴を作る事に専念すれば、お前の手に紹興通宝の銭が手に入るだろう。」

 

と諭した。

 

紹興元宝 南宋初代 高宗
紹興元年~32年
(1131~1162年)

 

確かにのこぎり商売とは違いますね。のこぎり商売は地元の特産品を担いで全国へ売りにゆき、売上 金で行った先の特産品を仕入れて戻り、 地元で売りさばくことです。

 

今で言ったら、運送トラックが納品した近所で荷物を積んで戻ってくることでしょうか。

 

さて、一つの商売に絞れというのは良い点と問題点があります。専門家としては一つに集中してやっていくのは確かに上達は早いですし、その範囲でやっていくには非常に良いでしょう。お客としてもそこに何を頼めば良いのか分かりやすいですし。

 

バブル景気のときありましたね、製鉄業がエンターテイメント関係を始めたり、半導体関係に手を出したり。結局、全く違う業種に手を出すことが儲けどころか、大赤字に転落するきっかけになりました。

 

しかしですね、これは危険ですよ、例えば牛乳屋さん、今では絶滅危惧種ですよね。40年前であればコンビニもスーパーもろくになかったので、牛乳の流通も専門のルートで販売する、そういうのが普通でした。今は、そういった牛乳配達業だけで食っていけている店はほとんどないでしょう。

 

この本業からの浮気というか多角化というか。これは核となる部分を明確に、かつ他の分野との共通する管理手法があれば、多角化も悪くないと思います。

 

ただね、財務会計しか知らない人が多角化に手を出すのは止めた方がいいですね。MBA上がりは、管理手法を分かっていないでこういうのを吸収すれば全体的に財務状態が良くなるというだけで多角化とかM&Aをしたがりますから。

 

ここでは中庸の考えが重要になります。