傘売りがいた。数か月も日照りが続き、傘が売れないので雪駄を商売に移し替えようとした。計全子はこれを諌めて言った。

 

「お前は先祖から傘を商売にして、今日までその身を立ててきた。傘はお前の家の仕事であり、疎かにしてはならない。今は日照りを憂いて雨が降ることを忘れている。良い農民は大雨だろうと旱魃だろうと耕作を止めない。良い商売人は、折を見て市を捨てないという。それぞれ家に伝わるところの家業で上手く行かない事があっても、その場を踏みしめて他の商売に移らず、そのときを待って家業を守るのを良い商売人というのだ。俗に言う、石の上にも三年という言葉に、堪忍しなさいという戒めがある。天気だっていつも通りではない。天気がいい時もあれば、雨の日もある。世間がどうして変化しないからと言って、判断できるのか。昔、呉という国で猿を飼っている人がいた。十年経ってかわいそうになり、元の山の中に放してやった。その猿は山を駆け回り、梢を伝って食べ物を手に入れる方法を知らないので、飢えて死んでしまった。これは猿の山に住みなれて、田獲物を得る方法、即ち家業を忘れたからである。今お前が傘売りをやめて、他の商売に替えようとするのも、この猿の昔の話を忘れたのと同じようなものであろう。すでに昔の人もそれぞれの職業を失うことを戒めている。お前は傘の商売に安心して、静かに雨が降るのを待ちなさい。必ず商売を変えてはならない。天気が雨になれば、この事がとんでもない事だとは思わなくなるだろう。世の中のことわざに、知らぬ商売よりもよく知った細かい商売の方が甘みがあるだろう。」

 

こういうのを凞元通宝という。

 

 

この話は良し悪しあります。

 

良い点は、余り替えすぎるとお客の信用を得られないことです。この商売をやっているからそこから買う、あるいは仕事を依頼するのです。この会社にはこれが頼めるという目星があるから頼むのです。これをちょろちょろと変えられると、頼みようがないのです。

 

さらに仕事を変えるということは、今までの経験を捨てるということです。身に着けるのに時間のかかる技術などが全てゼロになるのです。

 

一方、悪い点です。この本では何でも商売を変えるなと主張していますが、今の時代10年後に亡くなる職業のペースは江戸時代とは比較になりません。

 

例えば、IT技術の発達により小規模金融業者は無くなるだろうと言われています。資金はクラウドファンディングのように集め(これは金融商品取引法違反の可能性が残りますが)、AIで与信してという感じになれば・・・という根拠のようです。

 

実際小規模金融機関が無くなるかどうかは別として、商売が成り立つ前提条件が必ずあります。そこを理解していないととんでもないことになります。