光の巨人を語らう | Wipe your tears with this!

Wipe your tears with this!

仮面ライダーをはじめとする特撮や民間伝承・妖怪・怪談が大好きな人間が、感じたことを徒然なるままに綴る。

気まぐれ更新。

あらゆる特撮作品に関わられた全てのキャストさん、スタッフさんに、敬意と感謝を込めて。

『ウルトラマン』より


第23話「故郷は地球」

登場怪獣:棲星怪獣ジャミラ




≪あらすじ≫


東京で行われる国際平和会議の出席者を乗せた旅客機や船が相次いで爆破された。


科学特捜隊は直ちに調査を開始、敵ロケットの撃墜に成功。


しかし炎の中から怪獣ジャミラが出現、これを排除せんとする中、その正体が判明。


実はジャミラは、宇宙ロケットで宇宙に旅立ったまま、


事故により帰還不能になった宇宙飛行士だったのである。


人類は科学の為に人間を犠牲にしたこと、人間衛星の失敗をひた隠しにした。


ジャミラは宇宙を漂流する中である星に流れ着き、


地球とまるっきり違うその星の気候風土の中で、肉体の変異を繰り返し生き延びた。


そして、全人類への恨みと呪いの心だけを持って地球へ舞い戻った……。




「ジャミラの正体を明かすことなく退治すること。宇宙から来た一匹の怪獣として秘密裏に葬り去れ」


それが、科学特捜隊パリ本部からの指令だった。


「事情は何であれ、地球に危害を及ぼす存在はあってはならない」


ムラマツ隊長は苦渋の決断を下す。




だが、イデ隊員の心は穏やかなものでは決してなかった。


「ジャミラと闘うの、やめた。ジャミラは、よく考えてみれば俺たちの先輩じゃないか……。


俺たちだっていつジャミラと同じ運命になるか知れない……」


ジャミラを迎え撃つ中、イデはなおも問いかける。


「ジャミラ、てめぇはもう人間らしい心を失くしてしまったのか……!」




しかし、運命には抗えない。遂にジャミラは、ウルトラマンの前に屈することとなった。


ジャミラの墓を前に、ムラマツ隊長は言う。


「ジャミラ、許してくれ。だけどいいだろう。こうして地球の土になれるのだから。


お前の故郷、地球の土だよ」


碑文。≪人類の夢と、科学の発展の為に死んだ戦士の魂、ここに眠る。≫


イデはそれを見つめたまま、遠くから名前を呼ばれるのを背に受けながら、


ひとり、呟いて、この話を締めくくる。


「偽善者はいつもこうだ。文句ばかりは美しいけれど……」













本当の正義は何か、悪とは一体何なのか――。




この世の全てが綺麗事で片付けられないこともある。


どんなに素晴らしいことを謳っても、詭弁であると流されるかもしれない。


机上で論議しても仕方ないと一蹴されるかもしれない。



何が正しくて何が悪いのか、何をすべきで何をしてはならないのか。



世の中はその分別のしにくい世界にどんどんなってゆく。


理想を掲げてもそればかりが高くなって、到底叶えられない社会で人々の意欲は更に低くなってゆく。




今、ここで自分がなすべきこと、決断しなければならないこと、その選択は難しい。



迷った時、その一瞬を突いて闇は忍び寄る。



その闇に支配されないようにもがきながら進んでもこれも果たして……。





答えが見つけられなくても、自分が進んだ道がゆくゆくは答えになろう。


あるいは答えにするために自分を信じる、これが大事なのかもしれない。





自分の考えたこと、選択したこと、それらは自分の中で正しいと思っている。


しかし、誰かの目には真逆に見えていることもあるだろう。


疑うのは簡単なこと。一方で、信じるのは難しい。


分かり合えばいいのかもしれない、信じれば、悪など生まれないのかもしれない。











かつての人間衛星で失敗したこと、それを認めていれば、早急に対応していればジャミラの暴走はなかった。



そして、ジャミラも、地球に残してきた仲間、また、人類の夢や希望を信じきれていれば、


弱い心がなければ助かったのかもしれない……?




科学特捜隊も、イデ隊員も、不如意な決断をしなければならなかったことから、


綺麗事がまかり通らない状況に腹立たしさを感じただろう。





イデ隊員は思ったはずだ。


『人類の夢と、科学の発展の為に死んだ……』


「文句ばかりは美しい」と言っているように、ひた隠しにした事実そのものを隠してまで称えたいのか、と。



あるいは、その罪を認めて反省した上で手向けた花なのだとしても、


ひとりの科学者の端くれとして、その泥にまみれた科学の進歩に同調することなど真っ平御免、と。






ひとりの科学者隊員の信念と、人類の科学の持つ理想。


お互いのベクトルが違う方向に向けられたゆえの葛藤。




自分と相手の思想、価値観が違うのは当然。


だが、その捻転が激しくなってしまう前に打つ手はないのだろうか。



そんなことを模索しながら今日もまた彷徨うのだろう。