成熟経済環境下における人的資本・金融資産最大化に向けた投資戦略 -3ページ目

成熟経済環境下における人的資本・金融資産最大化に向けた投資戦略

国内経済が成熟・停滞期にある現代において経済的な安定を得るためには、自身の人的資産への投資を通じた市場価値の維持・向上が不可欠であると共に、ピケティの21世紀の資本での教えを踏まえ、資産運用による収益確保を戦略的に進めていく必要がある

【評価】


☆☆☆



【紹介・コメント】
バイアウトファンドの業務内容や、彼等の企業価値向上のために用いる手法について書かれた本です。教科書ということもあり記述がやや固めですが、バイアウトファンドの実態を理解する上では良書と言えるかと思います。ただ、経営改善のための手法に関する記述が一般論で終わってしまったため、コンサルタントからするとやや物足りない感があります。以下に参考になった点を簡単に記載します。


バイアウトファンドの業務とは

未公開株(プライベートエクイティ)に投資し、投資先の企業価値を向上させることで収益を上げることです。投資先の候補は、経営の効率化により企業価値の向上が期待できる中堅企業や大企業の子会社等がメインとなります。投資先の選定後は、投資先企業のための資金調達の支援、投資先の経営者との連携の下での経営改善計画の策定、経営改善計画実施に向けた支援までを一貫して行うのが基本です。


バイアウトファンドの活用によるメリット

として最も大きなものは、これまで親会社とのしがらみや、社内政治等が理由で進められなかった思い切った施策を一気に展開できる点と言えます。基本的にファンドが出資した企業の株式は、一部を経営者、残りをファンドが持つこととなるため、通常の改革実行の際に障壁となる親会社や少数株主からの圧力を気にすることなく改革を実行可能となります。バイアウトファンドというと企業価値の向上のため、資産の大規模な整理、人員の大幅削減等荒々しい手を使う所ばかりとのイメージを持つ方もいますが、投資先の中長期的な発展を目指して共に努力するファンドも数多く存在します。


バイアウトファンドで働く人々

には、投資案件の発掘から投資資金の回収までの一連の業務を遂行する能力が必要とされます。バックグラウンドとして、インベストメントバンカー、コンサルタント、マーケティング担当者、法律・会計の専門家としての経験を持った人が在籍していることが多いです。最近の求人内容を見てもこの点は変わりないです。一人で全てを完璧にこなせる必要はありませんが、一連の業務に関する最低限の知識、特定の業務に関する高い専門性、業務推進の際に直面する数々の課題に対峙するための柔軟性と強い意思は不可欠な要素といえます。


【関連書籍】
『プライベートエクイティ 6つの教訓』 オリット・ガディッシュ

【評価】


☆☆☆☆



【紹介・コメント】
第一生命経済研究所のエコノミストであり、BRICS経済や地下経済に関する著書で知られる門倉貴史氏の著作です。タイトル通り、統計に関するデータの解釈の際に注意すべき点について、解説されています。ポイントを挙げると以下の通りです。


統計数字を算出する際のルールを正しく理解せよ

平均寿命でも、個人金融資産額でも、失業率でもそうですが、各統計数字には、算出する際のルールがあります。個人金融資産で言えば、普通口座預金、保険、株式、国債等々の内、何が足されて何が足されないか、調査対象はどこまでかを明確に把握していなければ、その数字が示す真意は理解できませんし、誤った判断にもつながりかねません。


同じ統計数字でも、算出方法が変わることがある
私も仕事柄、消費者物価指数、企業物価指数といった政府統計を利用する機会が少なくないのですが、ここで注意いただきたいのは、同じ名前の経済統計でも、ある年度を境に集計項目や調査対象が入れ替わることがあります。そのため、実際にはデフレ進行中にも関わらず、消費者物価指数が上昇するといったことも可能性としては、ありうるわけです。この点は十分注意しておく必要があります。


統計数字のクセを理解せよ
統計数字の中には、その算出方法の関係で、上方ないしは下方へのバイアスがかかりやすいものがあります。消費者物価指数などがその典型なのですが、この指数は、実際の物価変動のうち、ある原因のものの影響は受けにくく、ある原因のものに対しては、実際より大きく数字が振れるといったことがあります。実務で統計数字を扱う際は、是非このレベルまで理解したうえで統計数字に当たる必要があります。


統計数理を専攻していた身として、また現在もデータの分析・加工を行う身としてなかなか感慨深い内容の著作でした。本文中には、ほとんど数式も出てこないので、文系の方でも興味があれば是非読んでみてください。




【関連書籍】
『BRICs 新興する大国と日本』 門倉貴史
『「社会調査」のウソ』 谷岡一郎


【評価】


☆☆☆☆



【紹介・コメント】

メリルリンチのニューヨーク本社勤務などを経て、現在みずほ総研の主席研究員として課活躍されている真壁昭夫氏の著作で、行動ファイナンスの概要と実生活(投資が中心)との関係が主な内容となっています。


行動ファイナンスというのは、投資家の心理的要因による非合理的な行動も加味したファイナンスの理論であり、この点で、合理的な投資家と理想的市場を仮定していた伝統的なファイナンス理論とは大きく異なります。ここで行動ファイナンスの解説については、他に譲るとして、本記事では、企業経営にも関わる要点をいくつか紹介したいと思います。



選好逆転/アレのパラドックス/エルスバーグの壺:この三つは、人間が伝統的ファイナンス理論で主張されてきた期待効用理論に基づく行動を取らないことを示す有名な例です。個々の説明は省きますが、大まかに要点を言えば、「人は、期待効用が最大になる選択ではなく、確実に利益を得られる選択や、不確実性の少ない選択を好む傾向にある」ということです。証券投資に限らず、様々な場面で、皆さんもこの例に遭遇しているはずです。これは必ずしも悪いことではありません。5%の確率で800億の利益を獲得できる事業投資と、80%の確率で50億の利益を獲得できる事業投資の価値が同じとは考えられませんし、社員や投資家のことを考えれば、前者の選択肢が適切とは言えないでしょう。ただ、近年の日本企業は、前者の選択を好みすぎる嫌いがあるので、その点に関しては対処方法を考える必要があります。



感応度逓減と損失回避:いずれもノーベル経済学賞に輝いたプロスペクト理論を特徴付けるキーワードです。感応度逓減というのは、人間は獲得する利益が増加するに従い、一単位あたりの利益から感じる利益が薄れるということ、損失回避とは、人々は利益の増加よりも損失の増加に対する感応の方が強いということです。これは、株式投資に限らず、事業投資でも非常に多く見られる思考の罠です。複数事業を営む企業の多くから、成長事業の収益拡大のための投資を、赤字事業の黒字化のために浪費するといった例が見られます。勿論、その赤字事業への投資が5年後、10年後の成長に不可欠なものであれば別ですが、問題のある事業のために、優良事業へ振り向けるべき資金と人材と投入することは愚の骨頂です。そのような意思決定をしていないか、短期利益・中長期利益の最大化のための最適な意思決定ができているかを常にモニターすることが不可欠です。



因果関係の過大評価:ある出来事に対し、その前後で起きた出来事との因果関係を課題に評価してしまうという、思考の罠の一種です。よく、ある企業の株価の上昇の原因を、ある国の消費者物価指数や住宅価格の上昇(下落)などと関連付けて説明するアナリスト、エコノミストがいますがその妥当性には疑問があります。私は元統計数理の研究をしていた身として忠告させていただけば『データ上相関関係があっても、定性的な因果関係が全く無い変数の組はいくらでも存在する』ということです。データを見る時は、自身に思考のバイアスがかかっていないか、一度冷静にチェックするようにしましょう。


【関連書籍】

『行動経済学』 友野典男

『非対称情報の経済学』 藪下志郎