主治医の先生がいきなり母に向かって
「おなかにチューブ入れますか?」
と仰った。
驚くと同時にホッとした気もした。
ずっと聞こうにも聞けなかったから。
母は一瞬止まった。
それまで「先生、先生」と元気な頃のように日頃のお礼を言おうとしていたが急に黙った。
いくら最近話せるといってもどんな話題でも咄嗟には言葉が出ない。
先生が去ったあと、
「もういいわ、そんなことをしなくても」
と胃ろうはしないとはっきり言った。
私は複雑な気持ちで、それでも母に
「お母さんの嫌なことは絶対しないよ。」
と伝えた。
しかし母は昔の人間。
先生が勧めてくださったことに従わないことに躊躇し逡巡する。
せめてもの救いは、まるで買い物中に悩むように、どちらか好きな服でも選ぶかのように明るい。
「先生、さっきはいやに気合いが入っていたね〜。」
などとまるで他人事かのようにのんきで逆に救われた。
先生に考える時間はいただいた。
とりあえずよく考えよう。